マネジメント

最も成功する人間はギバー(与える人)である

 「与える人」こそ成功する時代、という副題の付いた『GIVE&TAKE』(アダム・グラント著、楠木建監訳、三笠書房)が面白い。

 人間を「ギバー(与える人)」「テイカー(受け取る人)」「マッチャー(バランスを取る人)」の3類型に分けて、なぜ、最終的に最も成功するのがギバーなのか、を具体的に検証している。文章も翻訳本の割に読みやすいとあって知らぬ間に没頭している自分に気づく。監訳者による巻頭の解説も明晰でありがたい。

 私も「与える人」「奪う人」に関心を持ち、考えてきた。人生には協力者が必要だと思うが、それは「奪う人」でなく「与える人」でなくてはならないと考えるからだ。

 とはいえ「与える人」は、現実に少ない。その稀な1人に、(株)アースホールディングスの創業者、國分利治さんを挙げていいと思う。

 國分さんは高校卒業後、福島から上京、新宿・歌舞伎町の美容師見習いからスタートして30歳で独立。社員3千人、年商170億円の美容サロングループを作り上げた。

 國分さんが「与える人」であるのは、アースホールディングスの運営、特にのれん分けを見れば理解できよう。

 従来、独立したい美容師にはお荷物の赤字店を譲ったものだ。時には借金ごと。オーナーにはいい方法だ。赤字と借金から解放され、新規出店もできる。即効でプラスだ。

 だが若い美容師に、融資も受けられない店の経営はきつい。閉店に追い込まれたら、フランチャイズ制を採っているなら本部にロイヤリティーも入らなくなる。長い目で見たら、どちらにも得はない。

 國分さんはフランチャイズ制を採用したとき、真逆の方法を採った。つまり若者に「儲かっている、黒字店を譲る」ことをポリシーにしたのだ。

 黒字店を手放すと、國分さんは一時的にマイナスになる。新たな店を黒字店に育てなくてはならない。時間もかかる。だが「日本一の美容サロングループ」をつくるという大義には不可欠と考えた。

 

他人のためにしか人間は頑張れない

 これはプラスの連鎖を生んだ。店長は自分が手塩にかけて黒字にした店のオーナーになるのだから、愛着もモチベーションも違う。もっと出店して黒字店を増やし、國分さんが自分にしたと同様に後輩に店を譲ろうと頑張る。

 結果的に豊かなロイヤリティー収入やグループの団結力として、アースホールディングスに返ってくる。

 「与える人」の成功は時間がかかるが、確実で永続的だ。目先の利害得失に惑わされないという意味で、行動経済学でいう時間割引率の低い人と言っていい。

 「与える」典型は子に対する親の対応だろう。親を核とするファミリーの特徴として、利害よりまず相手への慮りがある。フラットに「彼は何を欲しているのか、なぜ欲しいのか」と考えて行動の基準とする。これが「与える人」の強さの源泉になると私は思う。

 会社を3つ成功させているある女性起業家の周りには多くの有能な人たちが集まっている。彼女が常に「相手はどうすれば喜ぶか」を基準に行動したために、利害を離れたファミリー的な応援団が自然に形成されたのだ。彼女の事業を成功させるために彼らは有形無形に大きな力となる。

 ファミリー的集団では、それぞれが競争相手、敵ではない。仲間である。「奪う」「奪われる」の争いは起きない。

 結局「与える」「奪う」の差は、他者を仲間志向でとらえるか、利害社会の競争相手、敵と見るかの違いに帰着する。

 國分さんの口癖の「人は最終的には他人のためにしか頑張れない」は仲間志向だ。「与える人」が成功する時代とは、他者のために頑張る「仲間志向の人が成功する時代」ということになるのだろうか。

 

<今号の流儀>

他人を競争相手、敵とだけ考えるのは弱者の思考である。

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