国際

オバマ大統領という人物は明らかに米国の教育の産物だ。実の父に捨てられ、母の親元で育てられて高校を卒業後、西海岸で最も古いリベラルアーツカレッジの1つ、オクシデンタル大学に入学し、2年後、ニューヨーク州のコロンビア大学に編入して政治学、特に国際関係論を専攻し、大学卒業後はニューヨークで出版社やNPO「ビジネスインターナショナル」社に勤務。

 その後はニューヨーク パブリック・インタレスト・リサーチグループで働き、ニューヨークでの4年間の後、イリノイ州シカゴに転居し、1985年6月から88年5月まで、教会が主導する地域振興事業の管理者として勤め、88年にケニアと欧州を旅行し、帰国後の秋にハーバード・ロー・スクールに入学している。

 米国では社会人になったり学生になったりは普通だ。初年の暮れに「ハーバード・ロー・レビュー」の編集長に、2年目には『プレジデント・オブ・ジャーナル』の編集長に選ばれた。91年、法務博士(Juris Doctor)の学位を取得、同ロースクールを優等(magna cum laude)で修了しシカゴ大学の法学フェローとなる。非常に勉強のできる青年で、だからこそシングルマザーの子ども、しかも黒人であるというハンディを乗り越えて大統領にまで上り詰めることができたのだ。

 大統領の2期目に入る時、オバマは教育に関して、こう言った。

“At this defining moment in our history, America faces few more urgent challenges than preparing our children to compete in the global economy.

〈歴史における今この瞬間に、グローバルな経済競争の中で子どもをどう教育していくか、という問題が緊急課題となっております〉

The decisions our leaders make about education in the coming years will shape our future for generations to come.

〈今、教育をどうしていくかと各界のリーダーが決めていくことこそが、今後続く世代を取り巻く世界を形作っていくこととなるからです〉

It will help determine not only whether our children have the chance to fulfill their God-given potential or whether our workers have a chance to build a better life for their families, but whether we as a nation will remain in the 21st century the kind of global economic leader that we were in the 20th century.

〈それは単にわれわれの子どもたちが、神より授かった能力を生かし、勤労者がより良い家族との生活を構築していくか、ということだけではなくて、21世紀のグローバル経済の中で、われわれ米国民が20世紀にそうであったように世界のリーダーであり続けることができるかということにもかかわってきます〉

The rising importance of education reflects the new demands of our new world.”

〈教育の重要性の高まりは、この新しい世界の新たな需要を反映させるものなのです〉

この発言から数カ月が過ぎ、いよいよ21世紀の要求する需要に対応する教育策をオバマは打ち出した。高速ブロードバンドを学校に導入する、ということが第一歩だ。去る6月6日、オバマは学校への高速ブロードバンド導入を推進する計画「ConnectED」を発表した。5年以内に、全米の学生・生徒の99%が学校や図書館で100Mbps~1Gbpsのブロードバンド接続を利用できるようにすることを目指す。

“Once all these classrooms are wired for superfast Internet, that means a big new market for private innovation.

〈いったんすべての教室に高速インターネットが敷かれれば、個人個人の革新による大きな市場が出現します〉

“There are all kinds of things I do need Congress to do, and I want to work with them everywhere I can,”

〈いくつかのことについては議会に動いてもらう必要がありますが、私もできる限り、議会と共に働きかけていきたいと思っております〉

 大統領は米連邦通信委員会(FCC)に対し、学校や図書館のインターネット導入促進を狙いとした既存の支援プログラム「E-Rate」の見直しを指示。同じ建物内で、より高速な有線ブロードバンドやモバイルブロードバンドを利用できる設備の導入を促す。

 またConnectEDでは、既存の政府資金を活用して教師にIT教育を行うことも定めている。複数の学校が共同で機器を購入する場合には、大量購入による値引きを受けることも可能だ。

“But where we’ve got an opportunity to just go ahead and do something that’s going to help our young people, help our teachers, help our education system, help this economy, help our middle class, help to create jobs- we’ve just got to go ahead and do it.”

〈しかしながら、もしそれが若者を支援し、先生方を支援し、雇用を促進する助けになる機会があれば、われわれはただちにそれを実行したいと考えております〉

 議会の承認という悠長なプロセスを経ないで今にも取り掛かりたい、とオバマは強調した。

 

[今号の英語]no matter how~
 no matter how~というのは、「どんなに~であろうとも」という言い回しである。
 no matterは「~を問わず」という意味だ。No matter how bad things getと言えば、どんなに悪い状況になろうとも、という意味である。オバマは上記の教育に関する発言の中で no matter howだけではなくて、no matter who「誰であろうとも」、やno matter what「何であろうとも」やno matter where「どこであろうと」とno matterを頻出させた。
“No matter who you are, no matter what you look like, no matter where you come from, every child can learn-every child, every day, deserves that chance,”
〈たとえそれが誰であれ、たとえそれがどんな外見の人であれ、たとえそれがどういう出自の人であれ、すべての子どもたちは学ぶことができるのです。すべての子どもは、毎日、そういう機会を受ける当然の権利があります〉
 たとえ肌の色が黒くても、たとえシングルマザーの子どもでも、まともな教育を勤勉に受けて自己を成長させれば米大統領にもなれる、そういう世界をさらに深化させたいとオバマは考えているようだ。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

「消費者が電力の供給者を自由に選択できる時代へ」―― 再エネ主体の「顔の見えるでんき」をコンセプトに掲げるみんな電力が目指すのは、富が一部の人々に独占されないフェアな世界だ。法人顧客を中心に、同社への支持が集まっている理由を大石英司社長に聞いた。(吉田浩)大石英司・みんな電力社長プロフィール 消費者が発電事業…

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る