マネジメント

ピーチ・アビエーションに見るイノベーション

 最近の新しいベンチャー企業の社長たちをインタビューしていると、日本がだてに20年間寝ていたわけではないと実感する。日本をそう悲観することはない。むしろ、日本が新しい時代をリードする予感すら感じるほどなのだ。今回からはいくつかのイノベーティブな企業を紹介してみよう。

 まずはピーチ・アビエーションである。同社は、今からわずか2年前の2011年2月に全日空の社内ベンチャーとして全日空と香港の投資会社の間で設立された関西空港ベースのLCC(ロー・コスト・キャリアー)である。と、書いてしまえば、「ああ、全日空の格安航空子会社だね」と簡単に受け流されるかもしれないが、そんな単純な話でないどころか感動的なのである。だいたい、社長の井上慎一さんはLCCの翻訳としての「格安航空会社」という言葉に憤慨しているし、あえて全日空の持ち株を39%以内に抑えて経営独自性を保っている。単なる子会社ではないのである。

 驚異的なのは、12年3月の第1号機就航からわずか1年で、国内線は札幌、福岡、長崎、鹿児島、仙台、那覇、石垣、国際線はソウル、台北、香港便を開設、何と200万人の搭乗を実現していることだ。しかも、大阪―ソウル片道約4千円に代表されるような破格の低料金である。

 ピーチは全日空の経営企画にいた井上さんが、08年当時の山元峯生社長の直命「アジアの胎動を取り込め」を受けてスタートした社内ベンチャーである。しかし、山元社長の指令はそこまでで、後はこの禅問答のような言明を受けた井上さんの苦悩の物語であった。井上さんは世界中の新たなビジネスモデルを探索して歩き、米倉研究室にも「イノベーションとは何か」と尋ねてきたこともある。そして、最後に行き着いた先がライアンエアー会長であったパトリック・マーフィー氏であった。

LCCの基本は日本人が一番得意な領域

 何かと問題点ばかりが指摘される格安航空会社だが、現在世界で最大の乗客を運んでいる国際線はルフトハンザでもデルタグループでもなくライアンエアーである。かつてロンドン―パリ間が限定的とはいえ0・99ユーロ(約130円程度)という破格の値段で有名になっただけでなく、ダブリン空港とロンドンのスタンステッド空港をハブに、ライアンエアーは既にヨーロッパ50拠点にネットワークを張る一大航空会社なのである。米国のサウスウェスト航空に始まったこうしたLCC革命は、以下の3原則に基づいている。

①都市の主要空港ではなく、第2、第3のサブ空港を拠点とする。

②飛行機の使用回転率を上げるために機種を統一し、乗客の乗降を迅速化するため職員の多能工化が進められている。

③「ノーフリル」といわれる付帯サービスの廃止。基本的に全席エコノミークラスで、機内食、飲み物、荷物預かり、機内エンターテインメント、座席指定などはすべて有料である。

 パトリック・マーフィー会長はこの新しいビジネスのさまざまなメリットを語る最後に、LCCの基本は「コスト・マネジメントとホスピタリティ・マネジメントに尽きる」と言ったという。その瞬間に井上さんの全身に稲妻が走った。

「何だ、それって日本人が一番得意なことじゃないか」

 確かに、日本のトヨタ生産方式にせよQCサークル活動にせよ、その背後にあるのは徹底したムダ取りとコスト管理の思想である。そして、LCCはロー・コスト・キャリアーであって、格安チケット・キャリアーではない。先の3原則もすべてコストをいかにマネジメントするかにかかわる原則であって、格安チケットはそのマネジメントの結果にすぎない。だから、井上社長は格安航空会社という言葉を嫌う。安かろう悪かろうの響きがするからである。格安と安全性最優先を実現するコスト管理のために、ピーチは新しい航空機を使用し、整備は全日空の全面的バックアップを受ける。また、掃除の手間を省くため、すべてが豪華レザーシートである。安ければ、何でもありというわけではない。

 また、「おもてなし」という言葉に代表されるように、日本人の得意分野はまさに「ホスピタリティー」である。格安の料金設定でもできる限りの「おもてなし」精神を発揮する。キャビン・アテンダントは大阪弁や京都弁を駆使した独自のアナウンスで、おもてなし精神を前面に押し出す。井上さんは今後のサービス向上に関しては、世界最高といわれるシンガポール航空がライバルだと豪語する。

 最近になって成田空港利用も決まり、ピーチ・アビエーションの快進撃は続く。最後に井上さんが漏らした言葉を記して、その意気軒昂をたたえておきたい。

「日本人がやるとLCCはこうなるんだ、ということを世界に示したい」

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

金利固定化の方法を知る

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

人を育てる「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手に育成するコツ

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る