テクノロジー

サイバー攻撃を受けるということは、日本にとってバイタル(死活的)な問題だ

 

昨年秋にようやく動き出した日本のお寒い事情

 

 今回は、内閣の「情報セキュリティー政策会議」委員で、サイバー犯罪やそれにかかわる刑事法の専門家である前田雅英・首都大学東京大学院長(教授)に登場いただいた。前田教授は「日本政府がサイバー攻撃への対処に向け、ようやく一歩前に出た。これはいいことだ」と評価した。

 ―― 日本政府内でサイバー攻撃、いやサイバーテロ問題が政治、経済、安全保障、防衛さらには犯罪面から本当に意識され出したのはいつごろだったのでしょうか。

 前田 私は2005年7月から内閣の「情報セキュリティー政策会議」(議長・内閣官房長官)の委員を務めてきましたが、同会議の中で「サイバー攻撃は重大な問題だ」と言われ出したのは、ここ3、4年のことです。特に11年秋、三菱重工業や衆参両院の議員会館などが相次いで攻撃を受け、その後、12年秋ぐらいから日本政府として本気になって「対応しよう」ということになったと言っていいですね。

 そして今年3月下旬には韓国の主要放送局や一部の金融機関・農協などが北朝鮮からサイバー攻撃を受けました。韓国政府が「管理サーバーにウイルスが送り込まれたサイバーテロの疑いがある」と発表するに至り、「あっ、これはもう日本としても本格的に動き出さないといけない」ということになったというのが実態でした。

 それ以前にも各省庁のホームページ(HP)がDDoS(ディードス=分散型サービス拒否)攻撃を受けてHPが改ざんされた、などのケースがいっぱいありました。しかし、その当時の情報セキュリティ政策会議は、各省庁や電気通信会社の担当者などを呼び、「HPが攻撃されないように、HPはきちんと作りましょう」と指導したり、各省庁がどれだけコンピューターをきちんと管理しているかをA、B、C、Dにランク付けした〝通信簿〟を作ったりする程度でした。全体にのんびりしていたということです。

 ―― その背景には何があったのでしょうか。

 前田 会議の基調が経済産業省や総務省ペースだったということです。両省の言い分は「サイバー社会が発展しなければ、日本は良くならない」というもので、その裏には「規制を強化すれば、インターネットが発展しなくなる。だから規制は緩いほどいい」という思いや、憲法で規定された通信の秘密の保持意識などがありました。

 しかし、警察庁は「ネット社会が発展しようとしまいと、ともかく国民が害を加えられるのでは困る」と言い、防衛省は「外国から自衛隊が攻撃されたら一大事だ」などと主張していました。ここにはなかなか埋まらない溝がありました。

 

韓国でのTV局攻撃を米国は「戦争」と考えている

 

 ―― 先ほど「日本政府が本気になり出したのは昨年秋ぐらいからだ」と言われました。そんなに最近のことだったんですか。

 前田 そうです。「インターネットは安全でなければいけない」と考えてきたことは間違いなかったのですが、サイバー・セキュリティーの世界で「サイバー攻撃を受けるということは日本にとってバイタル(死活的)な問題だ」と認識されるようになったのは昨年秋だったということです。ただし、この当時は民主党政権で、担当閣僚がクルクル代わるなど、なかなか前に進みませんでした。流れが急に変わったのは昨年12月、自民党政権になってからです。ですからサイバー攻撃にどう対処するかが今、まさにホットな形に動き出しているということです。

 ―― そうした中で前述の韓国に対する北朝鮮の大規模なサイバーテロが起きたわけですね。

 前田 そうです。それで何が変わったかといいますと、「攻撃がどこから来たか、それが十分に分からないとしても、それを突き止める『主体』、つまり攻撃から日本を守る組織をきっちりと作っておかないといけない」ということになっていきました。

 日本の新聞やテレビ、週刊誌などは北朝鮮の攻撃に関して「北朝鮮は、金正恩第1書記直轄の対外工作機関『偵察総局』に下で、数千人規模のハッカーを養成するなどサイバー攻撃部隊を強化している」といった話を伝えるばかりで、日本としてサイバー攻撃にどう備えるか、そのための組織はどうあるべきかといった課題を報じることはありませんでした。

 私は情報セキュリティー政策会議の場で「北朝鮮の攻撃を受け、韓国のテレビが機能不全に陥ったということは危機管理および治安の問題だ。さらに安全保障・防衛の問題でもある。これを米国は『戦争』と考えており、日本ほどのんびりしていない。日本も、国が一歩前に出るべきだ」と発言しました。

 ―― その結果として、警察庁が全国13都道府県警に「サイバー攻撃特別捜査隊」を置いたわけですね。

 前田 防衛省も自衛隊に90人規模の「サイバー防衛隊」を設置する方向のようです。次回の情報セキュリティー政策会議で表明される見通しです。(以下の【注】参照)

 

【注】前田教授へのインタビューは5月中旬までに2回行った。その後、インタビューの中で教授が指摘したとおり、5月21日に同政策会議(議長・菅義偉官房長官)が開催された。この会議では「サイバーセキュリティー戦略」の原案がまとめられ、この中に前田教授が言及した「サイバー防衛隊」の新設が盛り込まれた。このほか原案の中には、攻撃した側を特定するために、ログ(通信履歴)の保存を接続業者に義務付ける案も入った。前田教授はこれまでログの保存の必要性を強調してきた人物だ。この点は次回以降、詳細に紹介する。

 

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