国際

米国はベトナム戦争あたりで壊れてしまったのだな、と感じさせるのが、Charles Murray著『Coming Apart: The State of White America, 1960-2010』 である。邦訳も出た。チャールズ・マレー著『階級「断絶」社会アメリカ:新上流と新下流の出現』である。

 これを読むと、1960年頃までの米国は平和だった。現況のように毎日犯罪が起きて何人も射殺されるなどという事件が立て続けに起きることなど、かつてはなかったのだと統計で示される。

 最近の米国社会像は、少数の「腐敗した特権階級」と大多数の「真面目に働く健全な庶民」という対比で語られる中、特にオバマがそういう言説を駆使しているわけだが、この本によると、その対比は正反対の錯誤で、エリートが家族や信仰を大切にする伝統を保持する一方で、労働階級は働かず、結婚せず、それでも妊娠してコミュニティーに参加せず、教会にも行かず、米国的伝統を急速に崩壊させている。それを丁寧に数字で表しているのが本書だ。異論もあろうが、確かに、この犯罪の急増は尋常ではない。

 昨年4月、カリフォルニア州オークランドにあるキリスト教系「オイコス大学」で43歳の韓国系の男が銃を乱射し、7人が死亡、3人が負傷した。7月、コロラド州デンバー郊外オーロラの映画館で70人が死傷する乱射事件が起き、8月には中西部ウィスコンシン州ミルウォーキー近郊オーククリークのシーク教寺院で銃乱射事件が起き、7人が死亡した。翌9月にはミネソタ州ミネアポリスで、会社から解雇を言い渡された36歳の男が職場へ戻って銃を乱射し、創業者ら5人を殺害し、容疑者自身もその場で自殺した。

 10月米ウィスコンシン州ミルウォーキー近郊のショッピングセンターで、男が銃を乱射し、7人が撃たれ、このうち3人が死亡し、犯人も遺体で発見された。そして12月、オレゴン州ポートランド南部のクラカマスにあるショッピングモールで覆面男が乱射し2人を殺害した後、自殺した。同じく12月には極めつけの銃乱射事件があった。東部コネティカット州ニュータウンのサンディフック小学校で20歳の男が銃を乱射し、5~10歳の子ども20人を含む26人を殺害し、犯人は自殺した。直後にオバマはホワイトハウスで言った。

As a country, we have been through this too many times.――

〈一国としてはこの手のことをあまりに多く経験してきてしまいました〉

Whether it’s an elementary school in Newtown, or a shopping mall in Oregon, or a temple in Wisconsin, or a movie theater in Aurora, or a street corner in Chicago these neighborhoods are our neighborhoods, and these children are our children.-――

〈それがニュータウンの小学校であれ、オレゴンのショッピングモールであれ、ウィスコンシンの寺院であれ、オーロラの映画館であれ、シカゴの街角であれ、われわれの隣人であり、これらの子どもたちはわれわれの子どもたちなのです〉

And we’re going to have to come together and take meaningful action to prevent more tragedies like this, regardless of the politics.

〈われわれはこれから手を取り合って、政治的な立場を越えて、このような事態を避けるために意味のある行動をとらなければならないのです〉

 

今回のコネティカットは小学生20人が射殺されるという前例のない事件だ。犯人の所持していたのは軍用M16ライフルの民間版ブッシュマスターAR-15という自動小銃で、あまりの殺傷破壊力で外形から身元の判別が困難な遺体も多かったとされる。いよいよ銃社会の問題点はオバマも避けて通れなくなり、2013年の一般教書で遂に言及した。

Overwhelming majorities of Americans. Americans who believe in the 2nd Amendment have come together around commonsense reform like background checks that will make it harder for criminals to get their hands on a gun.

〈ほとんどの米国人は、つまり、米国憲法修正第2条によって保証されている権利を信じているほとんどの米国人も、例えば、身分調査を徹底することによって犯罪者が銃を手にすることを困難にすることなど、常識に沿った修正を加えることへ共に協力しようとしております〉

 米国憲法修正第2条によって保証されている権利(a right guaranteed by the 2nd amendment to the US Constitution)とはfreedom to bear arms(武器を自由に携帯する権利)である。

 米国は拳銃を腰に、西部開拓をしてきた歴史がある。だから個人から「刀狩り」することは難しい。政府が国民の権利に過剰介入することを嫌う。大統領は今年1月に新たな銃規制法案を発表した。殺傷力の高い自動小銃や多数の弾丸を込められる弾倉の新たな製造・販売を禁止する他、犯罪歴や病歴の調査を徹底する案がというごくごく控えめなものだった。その後、民主党と共和党が法案修正で合意し、審議が行われていた。これと並行して全米ライフル協会などは法案に猛反対するキャンペーンを大枚をはたいて行った。で、上院は、この包括的な銃規制法案を反対票54、賛成票46で否決させたのである。インターネットや銃展示会などで銃を購入する際の身元調査を強化することを定めただけのこの控えめな法案は、それでも廃案となったのである。

 どんな犯罪歴があろうとfreedom to bear armsは担保された。

 

[今号の英語]coherent
 coherent とは、理路整然とした、という意味である。一貫性のある、という意味だ。
 オバマは法案否決の報を受け、ホワイトハウスで、こう言った。
“There were no coherent arguments as to why we wouldn’t do this,”
〈ここには、どうしてこの法案を通さないのかということに関する筋の通った討論は行われなかった〉
“It came down to politics.”
〈すべては政治に帰せられてしまった〉
“All in all, this is a shameful day for Washington.”
〈とにもかくにも、ワシントンにとって恥ずべき1日となった〉
 実際問題、法案が通るかもしれないという駆け込み需要から、ニュータウンの小学生を殺戮した軍用M16ライフルの民間版ブッシュマスターAR-15もeBayで4千㌦の高値で売られ、たちまち完売した。eBayでは自動拳銃グロックの弾倉の相場はニュータウン乱射が起こる前の倍の値段に跳ね上がり、安売りスーパーのウォールマートではシグ・ザウエル(SIG SAUER)M400も飛ぶように売れた。全米ライフル協会の子弟が殺傷されるまで、この銃規制法案は日の目を見ないのかもしれない。恥ずべき1日だった、実に。

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