マネジメント

専門部署の組織化により、異なる知識を集約

 オープン・イノベーションの新しさは、外部で生み出された知識や技術を自社のそれと組み合わせてイノベーションを生み出すことにある。オープン・イノベーションでは、組織の境界の外にある経営資源を自社のビジネスのために動かさなければならない。価値を共創する仲間づくりのマネジメントである。これができないとなかなかオープン・イノベーションはうまくいかない。

 イノベーションの背後には必ず新しい知識が存在している。外部で生み出された知識は、自社で生み出されたものとは異なる。パートナーの組織が補完的な経営資源(ここでは知識)を保有しているだけでは、大きな価値の共創は見込めない。異なる知識を何らかの形でやりとりし、共有する必要がある。そこでは、異なる知識を組み合わせ、統合していくためのインターフェースが必要になる。

 今回から3回は、3つのオープン・イノベーションにおける知識マネジメントの在り方を見ていこう。

 第1の知識のマネジメントの在り方は、専門の部署の組織化である。コラボレーションを行う組織の間に専門の部署を組織し、そこに異なる知識のやりとりを集約化し、両方の組織の知識を密接にすり合わせていく。ヒートテックやシルキードライといった大きなヒットを生み出した東レとファーストリテイリングのパートナーシップはこのケースである。

 東レとファーストリテイリングはパートナーシップを開始する際に、東レ社内にGO推進室という専門の部署を設立した。東レにはさまざまな事業部や研究所があり、技術的な知識はそれらの部門に分散している。ファーストリテイリングが、分散する個別の知識を求めて東レの事業部や研究所といちいち交渉していては時間がかかる。さらに、新規性の高いプロジェクトであれば、どのような知識が必要なのか、利用可能なのかを事前に知ることは難しい。そのため、ファーストリテイリングから、コラボレーションの唯一の窓口としてGO推進室の組織化を東レに依頼したのである。

 ヒートテックは、両社がパートナーシップをスタートさせる時に想定していたものではなかった。累計で2億枚以上を売り上げているイノベーションは、まさにこのGO推進室を通じて双方の組織の知識のやりとりと共有化の結果として創発的に生み出されたのである。

想像以上の高い創発性を発揮

 専門の部署を組織化することによって知識のすり合わせをする形は、新規性の高いプロジェクトであればあるほど有効に機能する。新規性の高いプロジェクトであればあるほど、パートナーの組織がどのような知識や技術を持っているのかを事前に把握することは難しい。また、協働を行うそれぞれの組織が持つ知識の体系が異なるほど、知識をやりとりするための共通の言語を構築する必要がある。

 そこで、専門化された組織を通じて柔軟にやりとりをすることが重要になる。専門組織はそれぞれの組織に分散している知識や技術を集約することによって、組織間での知識の探索のコストを低減する機能を果たしている。専門の部署は自社内の技術についての高い専門性を持っているため、パートナーとの密接な情報の交換によって知識や技術の深い探索を行うことができる。また、専門の部署を組織化し、そこに権限移譲がなされれば、パートナーシップに対する大きなコミットメントが組織に芽生える。実際にGO推進室の高いコミットメントはヒートテックの開発において重要な役割を担っていた。

 専門の部門を組織することによる知識のマネジメントは、事前には予想していなかったような高い創発性が期待できるという大きな利点がある。ヒートテックはまさにその成果である。また、パートナーとの関係にも妙があった。繊維において高い技術力と安定した生産能力を持っている東レにとっては、ファーストリテイリングの確度の高い市場情報とその販売力により、それまで蓄積してきた技術を大きく展開することができた。ファーストリテイリングは、東レの高い技術力によって、機能性を前面に打ち出した新製品の開発が可能になった。戦略的な補完関係が構築できていた。

 しかし、このマネジメントには注意も必要である。コラボレーションのパートナーが2社以上になった時には、この仕組みをうまく機能させるのは難しいという点である。多くの組織とのパートナーシップのもとで価値を生み出そうとする場合、パートナーごとに専門部署を組織化することは現実的ではない。また、オープン・イノベーションとは、それまでの探索範囲を超えたところでイノベーションを創り上げていくという側面がある。コラボレーションのパートナーがいつまでも同じ相手では、ニュー・コンビネーションの可能性は逓減してしまう。

 次回は、第2と第3のオープン・イノベーションの知識マネジメントを考えていこう。そこには、多くの組織とともに価値を創り出すための仕組みがある。

 

[連載] 世界で勝つためのイノベーション経営論 米倉誠一郎氏 & 清水洋氏の記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る