マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

【事例】洋菓子製造会社の不祥事の例

 

 X社は、A社長が経営する小規模の洋菓子製造会社です。看板商品のロールケーキは、知る人ぞ知る本格洋菓子として元々コアな人気を獲得していましたが、このたび雑誌に紹介されたことで、爆発的に売り上げを伸ばしました。

 ところがあるとき、「ロールケーキでお腹を壊した」「クリームの味がおかしい」という苦情が寄せられました。その数は徐々に増えていき、さらには、「工場従業員のBが何かの液体をクリームに混ぜているのを見た」という噂がA社長のもとに流れてきました。そこでBが働く工場で作られたロールケーキを調べたところ、なんと、クリームから農薬が検出されました。

 BはA社長に個人的な恨みを抱いており、X社の評判を落とそうとして農薬を入れたということです。

 A社長は慌てました。「このままでは被害が拡大してしまう!せっかく売れ行きが好調なのに……」。

 X社やA社長はこの後どうなってしまうのでしょうか。

 

【解説】企業不祥事のリスク

 

  企業不祥事は、いつ、どの会社で起きてもおかしくありません。今回は冒頭の事例を題材に、企業不祥事に伴うリスクと対応策を説明します。

 (1)損害賠償のリスクがある!

 まず、企業不祥事が発生した場合、会社が被害者に対して損害賠償責任を負う可能性が出てきます。今回、農薬を混入したのは従業員のBですが、会社はその従業員が職務中に行った違法な行為(不法行為)についても損害賠償責任を負うことになります(使用者責任・民法715条)。さらに今回のケースでは、X社の他X社の役員も損害賠償責任を負うことがあります。仮に、A社長が問題を放置した結果、食中毒被害が拡大してしまった場合、社長として重大な過失があったとされ、A社長は、被害者に対して直接的に損害賠償責任を負うことになります(会社法429条)。

 (2)刑罰を受けることも!

 もしA社長が、農薬混入を知りながら事態を放置したならば、業務上過失致傷罪に問われる可能性すらあります(法定刑は5年以下の懲役・禁固または100万円以下の罰金)。過去には、2000年に雪印乳業が毒素の入った原料を使った低脂肪乳などを製造・出荷したがすぐに公表せず、1万数千人以上が食中毒を発症した事件で、元工場長が業務上過失致傷罪で禁固2年(執行猶予3年)の有罪判決を受けています。

 (3)営業停止の可能性も

 今回、X社は農薬が混入した食品を製造してしまったので、場合によっては食品衛生法に基づく営業停止処分がなされる可能性があります。

 (4)ブランドが失墜する

 企業不祥事でついて回るのはブランドの失墜です。特に消費者の関心が高い食品事故などでは、会社が倒産してしまうこともあります。

 

【解説】企業がとるべき不祥事対応

 

 それでは、X社はこれからどうすればいいのでしょうか。

(1)事実確認や原因究明を最優先に行う

 事実関係把握のため、迅速な調査が必要です。X社の例でいえば、Zロールに有害な物質が含まれているのか、その原因は何か、有害物質が混入した製品の販売量等を調査すべきでしょう。

 (2)同時並行で被害拡大の防止を!

 調査と並行して、真っ先にやるべきは、被害を最小限に抑えるための応急処置をとることです。原因が分かるまで製造ラインの停止、消費者への注意喚起、商品の回収など、消費者の安全を第一に考えた応急処置が重要です。

(3)事実を公表する

 消費者に直接かかわる不祥事の場合、積極的に事実を公表し、説明責任を果たすことが重要です。適切な対応を取るために、弁護士など専門家を利用することが有効です。

 (4)再発防止策を打ち出す

 調査結果を踏まえ、再発防止策を講じましょう。X社の不祥事の原因の1つは、工場内に農薬を持ち込ませてしまったことにありますから、工場の出入りを厳重に管理する体制の整備は必須といえます。

 

【最後に】不祥事はチャンスにもなり得る

 

 00年の食中毒事件で信用が失墜した雪印ですが実は、1955年に起きた同様の食中毒事件を契機に徹底した衛生管理に取り組み、業界最高の品質と評価されるようになりました。

 会社が企業不祥事に直面した場合にも被害拡大防止、原因分析、再発防止など適切に対応し、ピンチをチャンスに変える姿勢で臨めば、必ず活路は開けるはずです。

筆者の記事一覧はこちら

 

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

立志財団

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る