マネジメント

大反対を押し切って19時前退社を断行した鈴木茂晴氏

鈴木茂晴(すずき・しげはる)
1947年生まれ。京都府出身。慶応義塾大学卒業後、71年大和証券入社。本店営業、秘書室、引受部長などを経て、2001年専務取締役。04年6月大和証券グループ本社取締役兼代表執行役社長に就任。11年より現職。

 大和証券グループ本社会長の鈴木茂晴氏が一貫して取り組んできたのが、女性が活躍できる職場環境づくりである。

 同社では子どもが3歳になるまで育児休職の取得が可能、小学校3年生が終了するまで残業免除、子ども1人につき月上限2万円までの保育施設費用補助など、働く女性に対して手厚い支援を実施している。

 このほかにも、事務職から転勤のない地域限定型総合職(エリア総合職)への転向機会を多く設ける、やむを得ない転居が必要な場合に転居後も勤務場所を提供する、結婚、出産、介護などで退職した社員を一定の条件の下で再雇用する制度をつくる、といったさまざまな手立てを講じている。

 これらの結果として、結婚や出産等のライフイベントを迎えてもキャリアアップを図れる女性が増加。今や支店によっては女性管理職の比率が50%を超えるところもある。

 女性の活躍支援を唱える企業は多い。だが、ここまで徹底的に実行し、かつ結果を出しているところは日本企業ではまだまれだ。

 こうした社内の制度改革へと鈴木氏を導いたのは、同氏が2004年の社長就任時に支店を回って感じた「優秀な女性は多いが責任ある仕事を任されていない」という印象だった。

 当時からエリア総合職などの制度自体は既に存在していた。しかし、鈴木氏がまだ営業マンだった時代から優秀な女性が十分に活躍できない実態はほとんど変わっていなかった。鈴木氏は言う。「女性も、評価や昇進というものを男性と全く一緒にすれば、全く同じ活躍をしてくれるんじゃないかと思いましてね。大きな能力をそのまま発揮してくれるんじゃないかと」。

 もう1つ、重要な背景としてあったのは、証券会社のビジネスモデルが従来とは大きく変化したことだ。

 それまでの手数料一本主義から、新規顧客開拓による金融商品販売などのビジネスの比重が高まるにつれ、従来の体育会系スタイルがそぐわなくなってきた。体力や根性にモノを言わせる営業手法は通用しなくなってきたのだ。

 鈴木氏が07年に19時前退社の励行を始めたのもそうしたことが理由だ。この時は「19時退社では仕事にならない」と、社内から猛烈な反対の声が上がった。それでも、鈴木氏は揺るがなかった。

 「手数料ビジネスが全盛だった時代なんて、夜の10時や11時ごろにお客さんのところに電話しているわけですよ。新しい顧客をつくらなければならないのに、そんな時間に電話して、はい買います、なんてことはありません。今やったら出入り禁止ですよ(笑)。うちの会社の評判が落ちるだけです。これはもう、私の哲学としてやりたいと思いました」

 この制度は結果として、女性が活躍できる職場づくりにも寄与することになった。退社時間がはっきり見えるようになったことで、家事、育児のプランが立てやすくなり、女性が結婚や出産後も継続して勤務するケースが増えたという。

1人、2人を象徴的に起用しても駄目と語る鈴木茂晴氏

 女性の登用の仕方もかなり大胆だ。09年には一気に4人の女性を役員に抜擢。現在は取締役を含め、5人の生え抜き女性役員が大和証券グループでは活躍する。

 「ウチも昔は、場立ち(証券取引所で売買注文をさばく業務)に女性を入れてみたり、1980年代半ばに女性支店長を起用したりもしましたが、結局、話題づくりみたいな感じで長続きしませんでした。要するに、女性1人だけだとうまくいかなかったときに、女性はやっぱり駄目だというふうになってしまう。1人だけ象徴的に入れてもだめなんです。支店の法人担当の多くを女性にしようと思ったのもそういうことです。地方においては、地方銀行などは非常に重要なお客さまで、それまで担当は全員男性社員でした。最初はとにかく女性を入れようということで2、3人を担当に起用したのですが、それでは全く足りないから全体の3分の1まで増やしなさいと指令を出しました。女性の法人担当者が20人以上もいれば、早く成果が出る人もいれば、ちょっと遅れて伸びてくる人も出てきます。でも、それは男性も同じこと。そういう意味で、『やっぱり女性はだめだ』という話にはまずならないんです」

 実際に、女性社員たちが成果を出すようになり、営業成績上位者にも女性が徐々に増えていった。さらに、女性の登用を一気に増やしたことで、女性社員同士の横のつながりも強くなっていった。同じ役職の女性社員同士で、仕事について相談し合うようなケースも増えてきたという。

鈴木茂晴氏の思い 女性の力を社会に還元してほしい

034_20140422_01_Daiwa とはいえ、こうした施策が定着するには、やはりそれなりの時間が必要だったのも事実である。当初は、重要な顧客への訪問には、男性社員が付いて行き、女性社員は責任を持たされないというケースも多々見られたという。こうした状況なども、トップの権限でどんどん変えていった。

 鈴木氏は、「支店長にとっても女性が活躍しているのを1年、2年見ないと確信に変わらないですからね。そういう時間というのは重要だと思います。ですが、トップとしてのメッセージはガツンと出しておかないといつまでたっても変わりませんから」と語る。

 女性の活躍支援は、アベノミクスの成長戦略の柱にも掲げられている国家的なテーマだ。政府としては、20年までに指導的地位にいる女性の割合を3割に引き上げる目標を打ち出しているが、女性社員の母数自体が少ないため、実現は厳しいとの見方もある。

 鈴木氏も単純に数値目標を設定して、達成するのは難しいと考えている。やはり管理職まで上り詰めるためには、女性であっても男性であってもそれなりの能力と努力が必要なのは言うまでもない。鈴木氏は女性社員にこんなふうに発破をかけているという。

 「最近、女性が集まる場所でうちの社員に話すのは、とにかく辞めたらいかんと。自分たちだけの問題ではないぞと言っているんです。せっかく新規採用でも男女比率を5分5分にしているのに、女性がどんどん辞めていくと、やっぱり女性は駄目だということになってしまいます。君たちの力を、この社会に還元してほしい。自分の能力を信じて、意欲を持って生きていってほしいと強く言っているんです」

鈴木茂晴氏の信念 社員が最高のステークホルダー

 トップの決断について鈴木氏はこんな考え方を述べる。

 「それぞれの人に哲学があると思いますが、私の場合は『決めたら徹底してやる』ということです。最高の戦略、これ以上ないと思われる戦略が徹底されないで終わるよりは、最高の戦略ではなくても、徹底した作戦をとって実行したほうが勝つと私は思っています。利益だけが企業の目的ではないけど、水や空気と同じで、生きていくためには、利益は絶対に必要なものですから。要は利益を出して、たくさんの人をきちんと雇用するということが重要なわけです。やはり、自分のことをちゃんと見てくれていると思わなければ、社員は働かないですよ。社員が最大のステークホルダーだと会社が認識するのが、最も大切な部分ではないかと思っています」

 女性従業員の支援も就業時間の徹底も、社員が最大のステークホルダーという鈴木氏の信条に帰結するのだろう。

 こうした思いは、営業マン時代などを通じて鈴木氏がずっと抱えてきたものだ。鈴木氏自身も、会社が自分のことを見てくれているという感覚を仕事のモチベーションへとつなげてきたという。

 一方で、自分の会社に対する不平不満を同僚たちが言うのを見るにつけ、最前線にいる営業マンたちの考え方を強く変えたいとも思っていた、と鈴木氏は言う。

 「自分の会社に対して、全く不満のない人っていうのは、あんまりいないと思うけれど、そうは言っても最後には『ウチはいい会社だよな』と社員から一言出てくるような会社は素晴らしいと思うんですね。私はそこを目指しているんだと昔からよく言ってきました。最後には会社を愛している、と社員が思ってくれれば、最高だと私は思っています」

文=本誌編集長・吉田浩 写真=葛西 龍

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る