
バイオ燃料の推進をめぐる論争
今回が初めての寄稿ということで、自己紹介を兼ねて、バイオ燃料について、書かせていただきます。バイオ燃料とは、バイオマス(生物資源)を原料とした、自動車や飛行機に用いられる燃料です。私が代表取締役兼CEOを務めるグリーンアースインスティテュートでは、植物の茎や葉など、食料と競合しないバイオ燃料を元に、プラスチックの材料、アミノ酸などの化学品の製造に取り組んでいます。
既に、米国で市販されているガソリンには約10%、ブラジルでは約25%のバイオマスから作られたエタノールが含まれています。ただし、その原料は、米国ではコーンの実の部分であり、ブラジルではサトウキビと、食料や飼料と競合するものです。これに対し、植物の茎や葉、サトウキビの搾りかす(バガス)、さらには古紙といった食料にはならないバイオマスを原料に、燃料を作ろうとする技術開発が盛んに行われてきています。私もこうした非可食バイオマスからの燃料の分野でイノベーションを起こし、世界のエネルギー市場を変えたいと思っています。
さて、そのバイオ燃料ですが、2007年に、米国では、エネルギー自立・安全保障法という法律が制定され、バイオ燃料の導入義務が決められました。22年までにバイオ燃料を2倍以上に増産し、そのうちの半分程度は、セルロース系のバイオマスを原料とすることを決めたのです。
しかし、ここにきて、バイオ燃料の推進について、米国内で賛否両論があります。また、最近の日本の経済誌でも「バイオ燃料普及は曲がり角に来ている」(『週刊エコノミスト』14年1月21日号)といった報道がなされています。そのきっかけが、シェールガス・シェールオイルです。つまり、中東の産油国への依存度を低下させるためにバイオ燃料を利用推進していたところに、自国内でシェールガス・シェールオイルが取れるようになり、安全保障上の観点からは、特にバイオ燃料を利用推進する必要性が小さくなったというわけです。
他方、日経産業新聞14年3月3日付の記事では、国内におけるバイオマスエネルギーの将来の展望を肯定的に報じています。今、この分野は、国際的にも、揺れているといえるでしょう。
ここに、エネルギー政策の複雑さがあります。すなわち、エネルギー政策とは、国家の安全保障政策とも深い関係があるとともに、化石燃料の燃焼によるCO2排出の環境問題と裏表の関係にあるわけです。さらにバイオマスが関係してくると、農業政策にも大きな影響を及ぼすようになります。実際に米国では、バイオエタノールの問題は、石油業界VS農業関係者といった構図になっています。
昨年、米国のエタノール関係のコンファレンスやワークショップに何度か参加しましたが、その基調講演は、あたかも業界団体の決起集会のようでした。農家やエタノールメーカーの団体のトップがこう息巻く。
「今こそ、エタノール推進策を強化すべき。石油業界に、エタノール支援策を非難する資格はない。彼らはこれまで一体どれだけの支援を受けてきたというのか」
そして、ついには、「これは戦争だ」と言い出すほどです。今や、米国で生産されるトウモロコシの約4割はエタノール、さらには、その茎や葉もバイオ燃料の原料として売れるようになろうとしているのです。農家からすれば、バイオエタノールの利用推進が中止されることは、相当な打撃です。そういう意味では、農業とエネルギー産業が一体化しているのです。
エネルギー問題における農業政策という視点
ここで、興味深いのは、バイオ燃料をめぐって対立している石油業界と農業団体のいずれもが、共和党の大きな支持母体ということです。すなわち、この問題では、共和党内で意見が分かれているのです。
それに対し、政権を担う民主党は、環境保護の立場があり、比較的、カーボンニュートラルなバイオ燃料を推進しようというスタンスです。従って、シェールガスが出るようになったので、すぐにバイオ燃料への支援をやめようということにはなっていません。
このように、バイオ燃料には、さまざまな要素が絡み合っているのです。日本では、電力の問題が、エネルギー問題の中心で議論されていますが、燃料の問題も、重要な課題として考えていかなければなりません。バイオマスエネルギーについて、エネルギー政策とあわせて、農業政策という視点を、もう少し強く持つ必要があります。
それは、必ずしも、補助金などを増やすということではなく、イノベーションにより、これまで価値を有していなかったものを有価物に変換することで、日本の農業にとっても、新しい付加価値を生み出すことにつながるのです。
好評連載
エネルギーフォーカス
一覧へ緑の経済成長とエネルギー
[連載] エネルギーフォーカス

[連載] エネルギーフォーカス
電力業界のイノベーション
[連載] エネルギーフォーカス
10年後の電力業界の様相(2)
[連載] エネルギーフォーカス
発電単価から既存原発の経済性を考える
[連載] エネルギーフォーカス
日本は再生エネルギーで世界トップとなる決断を
金の卵発掘プロジェクト
一覧へ「一刻も早く」「もっと安く」に応える会員制ヘリ捜索サービスを実現させる――久我一総(オーセンティックジャパン社長)
金の卵発掘プロジェクト2016 グランプリ受賞者の横顔(最終回)

金の卵発掘プロジェクト2016 グランプリ受賞者の横顔(第4回)
消防・警察から山岳団体まで。遭難対策関係者が評価したHITOCOCO――久我一総(オーセンティックジャパン社長)
金の卵発掘プロジェクト2016 グランプリ受賞者の横顔(第3回)
コードレス電話の無線技術を生かし人を救う商品を作りたい――久我一総 オーセンティックジャパン社長
金の卵発掘プロジェクト2016 グランプリ受賞者の横顔(第2回)
米国留学後に1年遅れで就職 海外でのバイヤーと駐在経験が糧に――久我一総(オーセンティックジャパン社長)
[金の卵発掘プロジェクト2014]
グランプリ受賞企業の今「目指すは教育界のディズニー」--水野雄介(ライフイズテック代表取締役)
テクノロジー潮流
一覧へアジア大会とノーベル賞
[連載] テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流
水素社会へのステップ
[連載] テクノロジー潮流
エボラ出血熱と情報セキュリティー
[連載] テクノロジー潮流
21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業
[連載] テクノロジー潮流
工学システムの安全について
ビジネストレンド新着記事
注目企業
一覧へ刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表
「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

新社長登場
一覧へ「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡
創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

イノベーターズ
一覧へ老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治
フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

大学の挑戦
一覧へ専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長
2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

企業eye
一覧へ不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事
ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…
