
困難な中心国から先進国への脱皮
今年に入って、日本株が大きく調整している。株価下落の理由の1つは、昨年、外国人による15兆円という史上最大の買い越しを背景に、日経平均が57%と大きく上がったことの反動だ。そして、もう1つは、景気の低迷、国内の動乱、理財商品を中心とする金融システムなど、中国経済の不安である。
中国は、発展途上国から短期間で中進国の仲間入りをした。中進国の正確な定義はないものの、1人当たりGDPが5千ドルから3万ドルくらいの国を指すことが多い。ところが、その中進国を卒業するのは難しい。安くて豊富な労働力や潤沢な資源があれば、発展途上国から中進国へ成長することは難しくない。しかし、それからは、賃金上昇により、安価な労働力がなくなる。あるいは、資源だけでは、高い成長率の持続が難しい。これを打破するためには、産業の高付加価値化とイノベーションが必要だ。
過去数十年間にわたって、中進国から脱皮できていない国の例として、アルゼンチン、メキシコ、南アフリカなどがある。これらは、30年前に既に中進国であったが、いまだに中進国のままだ。発展途上国から中進国へ、そして先進国へと脱皮できた国は、ハイテク産業が育った韓国、台湾、イスラエルなどほんのわずかしかない。
中国の1人当たりGDPは7138ドルと、ベトナムの2064ドル、インドの1389ドル、そしてミャンマーの980ドルを大きく上回る。加えて、賃金はかなり速いペースで上がっている。もはや、世界の工場としての中国の役割は終わった。その一方で、中国では、世界的なハイテク企業は育っていない。このため、中国が早期に中進国から抜け出すのは難しいだろう。
加えて、日中関係にも不安が残る。日中関係が悪化すれば、日本企業に大きなダメージが発生することは、2005年と12年の反日暴動の例でも明らかだ。歴史を遡ると、中国の反日運動のルーツは天安門事件(1989年)だ。江沢民総書記(当時)は、中国の最高のインテリが集まる北京大学が暴動のリーダー役であったことを重視した。
江沢民は、中国共産党のDNAと正当性を子どもたちに理解させるべく、本格的な教育改革に乗り出した。中国共産党のDNAと正当性とは「侵略者である日本を中国から追い出し、中国を統一したのが、中国共産党だ」というものだ。92年に国家主席に就任した江沢民は、反日教育を本格的に開始した。
中国では、貧富の格差拡大や政府の汚職や腐敗などに加えて、経済成長率の低下に伴い、若年失業率が上がっている。こうした要因を背景に、地方で暴動や事件が相次いでいる。12年の日本政府による尖閣諸島の国有化の直後、反日暴動が起こったが、部分的ではあるものの、反日という名の下に、反政府運動が行われていた。チベットやウイグルなどの紛争を抱えているため、やがては、反日暴動が反政府運動に転化することもあり得よう。
しかし、警察や軍の締め付けが厳しいので、今のところ、政府のコントロールが効いている。ただし、力のみで、長期間にわたって、国民の不満を抑え続けることは不可能だ。
環境は厳しいが日本株の上昇基調は続く
その点、力に加えて、外に敵をつくることによって、国民の不満をかわすことは有効だ。この方法によって、国内統治に成功している国として、北朝鮮とイランがある。北朝鮮にとっては日本と米国、イランとっては米国と英国が批判の対象だ。そして、北朝鮮は時折ミサイルを発射し、イランでは民衆が米英の大使館に押しかける。
中国も、同様に、外に敵をつくることによって、国民の不満をかわしている。中国の場合、批判の対象が日本なのだ。頻繁に、中国は尖閣諸島に船を出し、挑発して帰っていく。国内では、「尖閣諸島を不法に占拠している」と言って、国民の不満を日本に向けさせているのだ。
しかし、これが、いつまでも通用するだろうか。インターネットで海外の情報を簡単に入手でき、そして、日本に旅行する中国人が急増している。いつまでも、日本を悪者にして、国内の不満をかわすことはできまい。その時は、中国の民主化が大きく進むかもしれない。同時に、政治、社会、そして、経済が大きく混乱するリスクがあることには要注意だ。
さて、相場に話を戻そう。米国を中心とする先進国経済は順調に回復しているため、日本株相場の上昇基調に変化はない。米国の金利上昇、経常赤字と財政赤字の縮小、日本の経常黒字の縮小を背景とする円安ドル高基調にも変化はない。そして、先進国の中央銀行は歴史的な超金融緩和を続けているため、リスク資産に向かうマネーもふんだんに供給されている。
今年6~8月頃、日銀による追加金融緩和、そして政府の成長戦略第2弾が発表されることだろう。よって、日本株の長期上昇基調は不変であり、早晩、相場は反発に転じよう。16年後半以降、日経平均は2万2千円前後まで上昇すると予想する。
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