マネジメント

子育ては、ビジネスの世界における人材育成の原点です。チャイルド・ファミリーコンサルタント・山本直美が、6千人の子供たち、4千組の家族の子育てコンサルティングを通して学んだ、人を育てるマネジメント法を紹介。父親として、経営者として「育て」の悩みを抱える読者のご相談にお答えします。

●ある経営者の相談●

事業拡大のために、世界3カ国を10日間でまわるスケジュールで出張に行った。結果、1つは無事に契約締結し、2つはペンディング。少し複雑な思いで帰国をし、その足で会社に向かうと、なぜか社員の表情も固く、よそよそしさが感じられる。出張続きでコミュニケーション不足とはいえ会社に戻った際の社内の様子に、いつも戸惑ってしまう。

 

離れた先の協力者

 私は、ファミリービルディング(家族を創る)のコンサルティングを行っています。過去に、有名な経営者の方々が、一人の父親として、私に子育てのお悩みを打ち明けてくださっています。その中でいつも感じることは、「経営上の人材に関する悩みと子育ての悩みは共通している」ということです。

 19年続けている親子教室では、企業経営と父親の二役をこなす方々から「子育てはマネジメントに生かせる」「子育てこそ人育ての原点」といった声も多く頂いています。

 今回のお話も子育ての場面に置き換えることができます。子育てにおいても、実はよくある出来事なのです。

 出張期間が長くなると、家族の話題についていけなかったり、ようやく帰宅したら子どもが泣いて寄りつこうとしなかったり。

 そんなときは、子どもに対し「電話をかける」「写真を見せる」など、父親を忘れさせない母親の協力が必要です。

 例えば「パパもこのお料理好きだよね」「そろそろパパもお風呂に入っている頃かな」と母親が子どもとの日常会話の中に、そのつど父親を思い出すきっかけをつくります。

 「会えなくても精神的に不在にしないこと」

 それが、子どもに父親を忘れさせないポイントです。

 とはいえ、父親の外での行動は母親からは見えません。ですから、母親が安心できるよう、仕事のスケジュールをあらかじめ伝えておき、協力者としての理解をもらうことも大切なことです。

 これを仕事に置き換えると「自身のスケジュールを開示し、社員に理解者になってもらう」「こまめに適切なコミュニケーションをとり、社員と協力関係を築く」となります。

 経営者の方にとっては、ごく当たり前のように感じるかもしれませんが、その基本に立ち返るきっかけを「子育て」が与えてくれるのです。

伝染する「表情」の力

 幼い子どもは、ことばを話すことができません。

 そこで子どもは、「笑顔」と「泣き声」を使います。笑顔によって愛情(助け)をもらい、泣き声によって空腹や危機を訴える本能を備えているのです。この2つの方法だけで、幼い子どものコミュニケーションは、成り立っています。

 だからこそ、無意識な大人の表情にも敏感です。考え事をしている険しい表情や怒りの表情を、子どもは敏感に読み取り、不安になり泣きだすのです。

 表情が与える影響がそこまで大きいものならば、これを生かさない手はありません。

 冒頭の経営者は、会社に帰ったとき、複雑な表情をしていたに違いありません。喜びと葛藤が共存し、咀嚼しきれていない状態だったことでしょう。「経営がどれほど大変なことか、社員には分からないんだよ」なんてうそぶいていたかもしれません。経営者は立場上、そのような状況が多いものです。

 しかし、そういった表情は、自身の葛藤を伝染させ、相手を困惑させてしまいます。

 「目下の社員と接するときほど、笑顔を効果的に用いる」ということが重要なのです。

 出張から戻ったとき、最近会話の少ない社員と顔を合わせるとき、どうしても叱らなければいけないテーマの会議の後など、相手との距離が離れがちな場面こそ、笑顔の対応を心掛けてみてください。効果的な場面で笑顔を用いることで、コミュニケーションの質は格段に上がります。子どもと同じく、経営者も周りの助けなくては生きられないのです。自身の経営者目線をいったん外し、助けてもらう相手として接するべきポイントを意識しましょう。

 大人は心にいろいろ抱えることが多いために、無意識に険しい顔になってしまいがちです。けれど、見回してみてください。きっと素敵だと感じる経営者の表情は、どこか子どもの笑顔に近いのではないでしょうか。

 周囲の人に「不安」ではなく、「安心」を与える経営者には、素敵なことがたくさん待っているように感じるのです。

 

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