政治・経済

 半世紀以上前になる。大阪の花街・北新地のたそがれ時、1台の人力車が軒を並べるお茶屋街にゆっくりと入ってきた。お茶屋の玄関先は掃き清められ、打ち水された花街の独特の風情。その一角に停まった人力車から老紳士が降り立ち、『平鹿』の女将、芸者に軽く会釈して、座敷の客になる。客人は阪急グループの総帥・小林一三。ペンネーム田鉄人(電鉄人)著『曽根崎艶話』を読み、経済と文化をこよなく愛したこの人物に興味を持った筆者は、まだ駆け出しの新聞記者ながら、すかさず挨拶をしていた。阪急電鉄、東宝などのグループを育て、東電の社外役員から戦前戦後、商工大臣などを務めた小林に差し出した名刺。「産経の前田(久吉)君のとこか。頑張りなさい」との一言を聞く。が、面識を得た直後の昭和32年1月25日、訃報に接した。

 小林一三は経済界の重鎮であった。グループ企業を数多くつくり、人材を育てた。傑作は戦後すぐ社長に据えた太田垣士郎。太田垣は戦時中、合併していた京阪電鉄と袂を別つ際の村岡四郎副社長との会談で淀川の右岸と左岸で分離することをOKさせた。結果、京阪が本線とは別に敷設した新京阪が、阪急側に引き継がれる。これぞ太田垣采配の妙。

 太田垣は昭和26年に和田馨にバトンを渡す。それは電力再編成劇の前段階で、太田垣が演じる統制経済下に生まれた日本発送電の解体。そして全国の配電会社づくりに次いでの電力再編成による九電力誕生に携わる密命であった。そこで阪急から転じて関西配電社長になる太田垣は、その後、関西電力社長、会長になり、関西財界を牽引することになる。関西経済連合会会長のポスト。小林一三の秘蔵っ子という評判どおりのリーダーシップに加え、中央政財界との太いパイプと決断力。黒部ダム、クロヨン発電所建設の英断は歴史に残る偉業であろう。

 後継者づくりも過去に類例を見ない手法だった。同窓で後輩の京都大学卒の技術屋・芦原義重を阪急副社長から関西配電の常務に招き、関西電力では自らが会長となり芦原を社長に据えた。そして芦原を財界総理に据えるため「朝の会」を演出。やがて「朝の会」は関西のポリシーボードになり芦原関経連会長誕生で中央と太くつながっていった。

 

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