政治・経済

「日本の観光をヤバくする」をテーマに挑戦的な試みを続ける星野リゾート。軽井沢の温泉旅館からスタートし、今やリゾートホテルやスキー場などにも事業を拡大し続けている。業界の革命児、星野佳路社長を夏野剛氏が東京銀座の同社オフィスで直撃した。(司会=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

雪と温泉の組み合わせは最強の観光資源と語る星野佳路氏

0422_20140513_Taidan_Natsuno_03夏野 僕は、青森屋(青森県三沢市)やトマム(北海道勇払郡)など星野さんの施設にはたくさん行ってるんです。実は、星野さんのオフィスに来たかったんですよ。どんな人がそれらの施設を作ってるんだろうって。フリーアドレスで、従業員の席が一切決まっていないんですね。

星野 そうなんですよ。オフィスにずっといるスタッフが少ないんです。営業は外に出て行ったり、現地のリゾートから東京で仕事をする期間だけここでデスクワークしたりするので、席を固定化するとスペースがもったいない。キャビネットを割り当てて図書館のように広げて仕事して、仕舞って帰る。次の朝にはまた場所取りが始まるんです。

夏野 場所取りですか。あぶれたらどうするんですか。

星野 そうならないようには設計していますが、あぶれた場合はほかで仕事してもらうことになります。このほうがインフォーマルなコミュニケーションがどんどん進むし、そこから仕事のヒントが生まれるし、私自身もすごく心地いいんですよね。もともと私は温泉旅館出身なので、社長室をバックオフィスに持つ余裕がないんですよ。スペースはお客さまのためにたくさん使いたい。すると社員のスペースはどんどん狭くなりますが、社員には食堂も休憩室もつくりたいので、社長室や会議室を持つ余裕がない。企業規模が大きくなっても、そういう旅館の文化を維持したいと思っています。

夏野 星野さんはどれぐらい日本を飛び回っているんですか。

星野 月の半分ぐらいですかね。地方の拠点にいることが多いです。趣味がスキーなので、冬には北方面によく行きます。

夏野 実益を兼ねて、ですかね。

星野 それもありますし、スキー場と隣接している温泉旅館というのは観光資源としてすごくいい。雪と温泉というのは世界最強のコンビネーションだと思っています。東南アジアを含めてアジアは雪のない地域がほとんどですから。シンガポールや香港、インドネシア、マレーシアなんかみんなそうですよね。日本では、本当に雪が観光資源だと思います。東南アジアだと海ですが、雪と言えば日本。雪に一番合うのが温泉と日本酒。

夏野 あとは、やっぱりおもてなしですよ。東南アジアで最高のアマンリゾーツなどは、日本の旅館のおもてなしに刺激を受けている。その一方で、日本のホテルは宴会のためにつくってるようなもので、お客さんをないがしろにしているところが多い。

星野 日本のホテルは宴会がものすごく利益率が高くて、収益が上がった時代があるんです。バブル経済の時ですが。その時あまりにも景気が良かったので、社内の宴会部門の力が強くなったという事情もあります。

夏野 日本は人口が減少していくので、観光資源を利用して、みんなに来てもらったほうがいい。

星野 そうですね。昨年日本への観光客数が1千万人以上を超えて過去最高になりましたが、世界のトップは8千万人のフランスです。

夏野 スイスも4千万人で、人口の何倍もの人が来る。

星野 3千万人を超えると観光大国と呼ばれますが、アメリカもイタリアも3千万人以上で、日本はやっとその3分の1。でも日本の強さは、国内にものすごく大きな旅行需要があることです。

星野佳路氏の戦略 管理職は立候補制で決める

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星野佳路(ほしの・よしはる)
1960年長野県生まれ。83年慶応義塾大学経済学部卒業。86年コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本に帰国後、家業の星野温泉に入社するも半年で退社し、シティバンクに入社。91年に星野温泉に再入社し、代表取締役社長に就任。95年星野リゾートに社名変更。温泉旅館、リゾート、スキー場などの運営で、観光業界の常識を打ち破るさまざまな試みを行う。

夏野 旅館は悪いところにあたると、本当に不快になります。星野さんのところはその点がきちんとしている。苦労したこともあったんですか。

星野 苦労したのは社員のリクルーティングです。僕は1991年に社長に就任して、従業員を募集しても応募がない。お客さんを集めるよりも、いいスタッフを集めるほうが苦労しました。働いてくれる人を集めるのは今でもこの業界の課題ですけど、そこをクリアしたことが今のわれわれの最大の強みかもしれない。まず、休みの日数は大手並みに合わせないとダメ。朝と夜に出勤する中抜けシフトも、若い人に人気がないからやめないといけない。朝早く出てきたスタッフは午後3時には帰れるようにしないとスタートラインに立てません。それでも十分ではなくて、大手にない部分を打ち出したんです。それは「自由」。社員は自由に発言したい、上司の許可がなくても言いたいことが言えるとか、そういう環境を求めている。どこまで自由を与えるかは限界があるけど、その姿勢が大事なんです。例えば、うちでは管理職は立候補制なんですよ。

夏野 え〜、それはすごい。

星野 人事部が評価して人材を抜擢するシステムだと自由がないじゃないですか。だから、自分はもう管理職やれるよという人は立候補してもらう制度にしています。

夏野 星野家は4代にわたって軽井沢で旅館をやっていたけど、星野さんが社長になって今のように変わったんですよね。

星野 星野温泉ホテルといって、軽井沢にあると施設が古くてもお客さんがたくさん来たんですよ。一番苦労したのは社員がいなかったこと。これが最大の経営課題でした。成長なんて当時考えていなくて、とにかく明日の予約をこなすだけのスタッフを集めるのが大変でした。でも、急にホテルをピカピカにしたり、従業員の給料や休みを増やしたりするのは会社の負担が大き過ぎるので、まず僕はこんな会社にしたいというビジョンを決めた。自分の会社に不満を持ってる人って山ほどいるじゃないですか。そういう人たちを想定して、うちの会社のことをアピールしました。「うちの会社は今はこうだけれど、ほかの会社にない部分もあります。これから、リゾート運営をさせたら一番うまい会社に向かって一直線に行きます」と、相手構わず言って歩いたんです。

夏野 その時はまだ軽井沢1カ所しかなかったんですか。

星野 1カ所です。古い星野温泉ホテルだけ。

夏野 それで、いきなりリゾートの達人になるんだと。

星野 そうです。

夏野 信憑性ないなぁ(笑)。

星野 (笑)。信憑性ないんですが、1千人もいると10人くらいは興味を持ってくれて、そのうちの2人くらいは入社してくれるんですよ。そこからですよね。2年目に新卒が2人応募してくれて、履歴書持って面接に来てくれた途端に説得ですよ。こっちが一方的に30分話し続けて電話番号を聞いてお帰りいただく。それで2人入り、5人入り、10人入りの積み重ね。それから20年たって、昨年の新卒入社は約180人でした。

夏野 うわ〜、すごいね。

星野 でも、僕は十数年前に採用プロセスから外されたんですよ。面接に来る人がみんないい人に見えちゃって(笑)。それで人事を失格になりまして、それ以降、採用には全くタッチしていないんです。

3つの要素を同時に実現するのがプロと語る星野佳路氏

夏野剛(なつの・たけし) 1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。95年米ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBAを取得。ITベンチャー企業を経て、97年NTTドコモ入社。iモードビジネスを立ち上げ「iモード生みの親」と呼ばれる。2008年同社退社後は、ドワンゴほか数社の取締役を務める傍ら、慶応義塾大学特別招聘教授として教壇にも立つ。

夏野剛(なつの・たけし)
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。95年米ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBAを取得。ITベンチャー企業を経て、97年NTTドコモ入社。iモードビジネスを立ち上げ「iモード生みの親」と呼ばれる。2008年同社退社後は、ドワンゴほか数社の取締役を務める傍ら、慶応義塾大学特別招聘教授として教壇にも立つ。

夏野 リゾート運営の達人になるための3つの数値目標とは何ですか。

星野 リゾート運営の達人とはどういう状態かという話になって、まずは「お客さんの満足度が高い」こと。でも、リゾートでそれを達成するのはそんなに難しくないんです。費用掛けちゃえばいいから。つまり利益と満足度を両立させるのが難しい。ですから、ちゃんと収益を上げましょうというのが2つめ。3つめに自然環境が豊富なところで仕事をしてますから、環境適応ノウハウを数値化しました。

夏野 この3つって、方向性がものすごく違うから逆に面白い。

星野 これを3つとも達成するのが、プロの仕事だと思っています。どれか1つを達成するのはお金を掛ければできてしまいますから。宿泊したお客さま全員にアンケートを取って、項目ごとに非常に満足から非常に不満まで段階を分けてポイントを付けます。3点満点で、達人は2・5を達成しないといけない。

夏野 そして、経常利益率20%を掲げていますが、ホテルなどの業界では非常に難しいと思います。

星野 なぜ営業利益ではなく経常利益かというと、やはり投資家やオーナーが満足しないとダメなんです。会社としての投資額も含めて、オーナーがリゾートに投資して良かったと思わないと、この業界は発展しない。そういう意味で、経常利益にこだわるのは大事だと思います。

夏野 エコロジカルポイントの目標が24・3というのは。

星野 グリーン購入ネットワーク(GPN)というものがあって、そこにホテルや旅館の環境適応表というものが出ていて25点満点となっています。そこで24・3を取ろうというのが目標です。軽井沢では地熱を使った暖房システムを導入したり、食材を堆肥化したりして100%リサイクルを実現しています。ゼロエミッションを目標にずっとやってきて、これができると、日本の国立公園の中でホテルがつくれるようになると思っています。日本の国立公園にはいろんな規制がまだありますが、将来国立公園にホテルをつくろうと思ったら環境対応が非常に大事になる。ゼロエミッションでホテルを運営できることが、将来、会社の競争力になると思っています。

夏野 素晴らしいですね。とにかく1つしかなかった施設が今や32ですから。やはり経営者は重要だなと。

星野 スキーリゾートもそうですが、僕は新しく難易度の高い案件に出合うとすごくネガティブな感情から始まるんですよ。背負い込むリスクも大きいし、案件が出てきたときには、まだ手法が分からないからどうしても慎重になる。うちの会社は不思議で、僕が反対しているのに周りがやりたがって参入していくことが多い。そこから半年、1年して何となくやるべき方向性が見えてくる感じですかね。

夏野 トマムの雲海テラスもすごいですよね。

星野 これも社員の発想なんですよ。夏になると、ゴンドラの鉄柱が錆びないようにペンキを塗るんですが、そのスタッフが毎朝雲海を見てすごいと思って、自分で写真を撮って会議で発表したんですよ。そうしたら、これはすごい、やるしかないと。そういう社員の自由な発言が、僕らを助けてくれています。

夏野 まさに、イノベーションですね。

 

※本企画はニコニコ生放送「夏野政経塾」とのコラボレーションです。

 

「都心の日本旅館は避けて通れないステップ」

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