政治・経済

1400年にわたって四天王寺を護り続ける

 世界最古の企業といわれるのが社寺建築の金剛組だ。創業は飛鳥時代の578年。官寺である四天王寺の建立のために聖徳太子が百済から招いた3人の工匠の1人、金剛重光が創業した。四天王寺の建立後も、金剛組は江戸時代まで四天王寺お抱えの宮大工として、代々、四天王寺を護り続け、優れた技術を継承してきた。

 刀根健一社長は、金剛組が1400年の長きにわたり継続してきた理由を次のように語る。

 「一番は何といっても、四天王寺さんのお陰ですよ。それから宮大工の技術。これに尽きると思っています」

 四天王寺は度重なる戦乱や災害に巻き込まれ、その都度、伽藍が損害を受けてきており、その再建を金剛組が担ってきた。また、1400年の間に、造形の美的感覚を追求し、質を高めてきたことも、技術の研鑚につながっている。

 「あれだけの伽藍の建築を常に仕事にしていたわけで、それだけでも宮大工の技術の伝承はすごいものがある」(刀根社長)

 金剛組の最初の転換点はまず明治になって廃仏毀釈が実施されたこと。これにより、四天王寺は寺領を失い、金剛組も四天王寺からの禄を失った。それ以後は、四天王寺をベースとしながらも、四天王寺以外の社寺建築に進出していった。

 昭和恐慌の際には大きな危機を迎えたものの、何とか乗り切った。そして戦後になって、1955年に法人化し株式会社となった。これを機に事業規模の拡大を推進。社寺以外の一般建築も手掛けるようになり、関東にも進出した。

 ピーク時の売上高は99年の130億円で、その6割が一般建築の鉄筋コンクリート造だった。それだけ社寺以外に展開していたことになる。しかし一般建築では大手ゼネコンとのコスト競争に勝てるノウハウはなく、受注しても採算ベースに乗らない案件が多かったという。2005年に売上高は75億円にまで減っていた。結果的には、事業の幅を広げ過ぎたことから経営が破綻した。

 ここで支援の手を差し伸べたのが髙松建設だ。支援の際には、「続いてきたものが、いったん壊れたら元には戻らない。金剛組を潰すのは大阪の同業の恥」という思いがあったという。ただし、髙松建設は上場企業であるため、支援については株主の理解が必要だった。さらに実際に支援できた大きな要因は、債権放棄だったという。

 「関連する業者や銀行が債権放棄に応じてくれたことが大きい。そこまで支援をしてくれるだけの歴史や技術力が金剛組にあったから、皆さんが同じ気持ちになってくれたのではないでしょうか」と刀根社長は語る。

髙松建設による再建後は原点の社寺建築に専念

刀根健一(とね・けんいち) 1954年生まれ。73年髙松建設入社、2001年同社取締役。04年青木あすなろ建設常務執行役員大阪建築本店長、05年青木マリーン取締役。11年金剛組専務執行役員を経て、12年同社代表取締役社長に就任。

刀根健一(とね・けんいち)
1954年生まれ。73年髙松建設入社、2001年同社取締役。04年青木あすなろ建設常務執行役員大阪建築本店長、05年青木マリーン取締役。11年金剛組専務執行役員を経て、12年同社代表取締役社長に就任。

 06年に、髙松建設が全額出資した新しい金剛組に従来の金剛組から営業権を譲渡させ、従業員の大半を移籍させ、新生・金剛組として再出発した。

 新会社になってからは、特に組織を変えなかったが、「普通の会社」に戻すことに努めたという。それは主に前社長の小川完二氏(髙松コンストラクショングループ社長)が取り組んだ。ひとつはガラス張り経営で、どこの会社でもやっているような情報開示を行った。情報共有や意見交換を行い、とにかく普通の会社の経営に戻したという。また、刀根社長になってからは、見える化を進めてフローチャートを定め、物事の進め方をより組織的に変えていったという。

 経営状況について、刀根社長は次のように語る。

 「恐らく社寺に関しては、そんなにひどい経営はしていなかったと思います。ピーク時の売り上げ130億円の4割が社寺で、規模としては50億円。新会社になってからの売り上げは40億〜50億円で推移していますから、今と変わりません。社寺以外のところの採算が合わなくなっただけだと思います」

 戦後に拡大していった一般建築分野で失敗しただけであり、社寺部門は変わらず順調だったことになる。それだけに現在は髙松コンストラクショングループの一員として、社寺建築専業に徹している。

 金剛組の技術力の源である宮大工は、組という単位で組織され、大阪に6組、東京に2組あり、計8組約120人の専属宮大工で構成される。これらの組は金剛家を棟梁とし、金剛家の弟子という感覚で専属意識を有している。この宮大工との関係は今後も変わらないという。

 ただし、社寺業界は、少子高齢化や檀家離れにより、市場が縮小傾向にあるという。今後について、刀根社長は「業界の中の適正な規模で、あくまで質を追う」と原点に立ち返る構えだ。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界9月号
[特集]
人材恐慌 この危機をどう乗り切るか

  • ・企業が脅える人材恐慌最前線
  • ・人材不足の処方箋 働き方改革でどう変わる?
  • ・加藤勝信(働き方改革担当大臣)
  • ・神津里季生(日本労働組合総連合会会長)
  • ・中田誠司(大和証券グループ本社社長)
  • ・若山陽一(UTグループ社長)

[Interview]

 松本正義(関西経済連合会会長)

 2025大阪万博で関西、日本は飛躍する

[NEWS REPORT]

◆第4次産業革命に走る中国、遅れる日本 松山徳之

◆格安スマホに対抗しauが値下げ これから始まるスマホ最終戦争

◆減収続くも利益率は向上 富士通・田中社長の改革は本物か

◆破綻からわずか2年 スカイマークが好調な理由

[政知巡礼]

 野田 毅(衆議院議員)

 「社会保障の安定した財源は消費税しかない」

ページ上部へ戻る