国際

米国で話題のネット配信ドラマ

ネット企業が生んだヒットドラマ「ハウス・オブ・カーズ」に米国テレビ業界は騒然としている

 「えっ、殺人があるの? その先は言わないで。今晩必ず見るから!」と、米国で話題になっている大ヒットドラマがある。「ハウス・オブ・カーズ(House of Cards、カードはトランプの札の意味)」という政治サスペンスで、しかもテレビで放送されているのではなく、オンラインのみで見られるドラマだ。

 主人公のフランシス・アンダーウッドは、連邦下院議員の与党院内幹事。院内幹事は英語でウィップ(ムチ)と呼ばれ、法案可決(野党案なら否決)に必要な票集めをする要職だ。その上、現職大統領の当選に尽力したアンダーウッドは、閣僚のトップである国務長官職を期待していたが、見事に大統領に裏切られた。アンダーウッドの復讐劇に、マスコミの特ダネ競争、中間選挙の前哨戦、妻の浮気など、さまざまな人間模様が絡み合う、どちらかと言えば暗いドラマだ。

 このワシントン版「半沢直樹」は、今年2月にシーズン2の配信が始まり、現在、米国はじめ英語圏の国々で最も視聴されている。

 さらにこのドラマが特殊なのは、オンラインレンタルビデオ最大手である米ネットフリックスが、巨額を投資して制作。テレビ局やハリウッドの映画スタジオといった、伝統的にテレビドラマを制作してきたコンテンツ・プロバイダーではない。ところが、テレビ番組に贈られる賞で最大の名誉であるエミー賞を昨年2部門で受賞。ゴールデングローブ賞でも助演女優賞を獲得した。

 同ドラマの成功が、テレビドラマというコンテンツを独占していた米テレビ局にとって、打撃だったのはいうまでもない。

 同ドラマは「異色」な要素を多く兼ね備えている。まず、総合監督は、フェイスブックの誕生を描いた「ソーシャル・ネットワーク」のデビッド・フィンチャーで、シリアスものが得意な監督だ。下院議員アンダーウッドを演じるケビン・スペイシーは、ハリウッドの俳優であるため、通常はテレビに出演しないが、主役を好演。助演俳優や脚本家も、テレビドラマは手掛けたことがないという豪華布陣だ。

 さらに、シーズン1は昨年、シーズン2は今年2月、それぞれ13話を一括配信した。はまったファンは、13話を一挙に視聴することができる。

 ヒットドラマはビッグデータで生む

 輪をかけて伝統的なテレビ局にショックなのは、ネットフリックスは、ハウス・オブ・カーズがヒット作になることを計算ずくで知っていたという事実である。それは、同社がインターネットサービス会社だからだ。

 ネットフリックスの全世界の契約者は約3300万人。このうち、3千万人の視聴動向を同社は把握している。何を見て、どこで一時停止し、どこで早送り・巻き戻しをするかといった膨大なデータだ。

 また、400万人をサンプルに、同社が配信する映画やドラマに、視聴者が★によるレーティングをする動向を、このほか300万人がログインする時間帯や端末、どんなコンテンツを検索しているのかも調べている。

 この結果、米国のテレビチャンネルでは、ヒット作であっても、再放送されない、暗くて複雑な内容のドラマを求めて、ネットフリックスが利用されていること、ケビン・スペイシーやデビッド・フィンチャーの「シリアス路線」がうけることを、集めたビッグデータが裏付けした。

 同社のチーフ・コミュニケーション・オフィサー、ジョナサン・フリードランドは、米紙ニューヨーク・タイムズに対しこう話す。

 「われわれは、消費者とダイレクトな関係があるので、人々が何を見たいのか知ることができるし、あるコンテンツについてどのくらいの関心があるのかも分かる。それによって、ハウス・オブ・カーズのような作品に視聴者が集まるという確信も得られる」

 脚本家らも、広告主や広告代理店の思惑、視聴率競争とは無縁の状況で、制作できたことを成功の秘密に挙げる。

 従来、ドラマのヒット作というのは、視聴率というサンプル調査の結果と、制作者の経験、そして人気俳優にたよった「錬金術」だった。

 しかし、ハウス・オブ・カーズは、ビッグデータをもとに、まさに視聴者が見たいドラマを的確に作り出した最初の例だ。今後、テレビ業界に及ぼす影響も計り知れない。

 

津山恵子氏の記事一覧はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩) 草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール   測量とアートが結び付…

草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る