政治・経済

内閣府(旧経済企画庁)出身の政治経済学者で、早稲田大学教授の原田泰氏は、安倍政権の経済運営に一応の及第点を付ける。だが、長期的経済成長には懐疑的だ。背景には少子高齢化という根源的な問題がある。/写真=佐藤元樹

ケインズ的財政出動はマトを射ず

 日本経済には復調の兆しがある。日本企業の平均株価は安倍政権発足時に、1万円前後から急上昇したときの水準――すなわち、1万5千円前後の水準をそのまま維持。過去13カ月間、日本の就業者数は増え続け、雇用条件も改善へと向かい始めた。

 早稲田大学の教授で政治経済学者の原田泰氏が、安倍政権の経済運営に及第点を付けるのも、日本経済にこうした回復基調が見られるためだ。

 ただし、原田氏はアベノミクスのすべてを評価しているわけではない。

 「3本の矢の中で、実際に遂行されているのは第一と第二の2本の矢、要するに、『大胆な金融緩和』と『財政政策』の2つです。このうち前者の金融緩和は、批判する向きもありますが、それによってさまざまな経済指標が現に良くなっています。したがって、高く評価するべきでしょう。ただし、第二の財政政策に関しては、あまり感心できませんね」

 なぜ、財政政策への評価が低いのか。その問題点を原田氏はこう突く。

 「日本は今、震災の復興と福島原発事故の終息、そして東京オリンピックと、どうしてもやらなければならない大工事を3つも抱えています。そんな中で、さらなる財政出動で公共事業の数を増やせば人手が足りなくなるのが当たり前。現に、建設労働者が不足して賃金が上昇、建設資材も値上がりし、工事がまともにできない状況に陥っている。ケインズ政策は人が余っている時にすべきこと。今の財政政策はどうもその辺り考慮に欠けているようです」

明治維新クラスの大改革を

 原田氏によれば、アベノミクスの第三の矢である「成長政策」に至っては、「かけ声だけが勇ましく実体が伴っていない」との批判のほうが正しいという。とはいえ、経済成長率を引き上げるような大改革はそう簡単に成しえるものではない。

 「明治維新や敗戦からの復興時と同レベルの大改革が必要です。具体的には、貿易自由化や資本移動の自由化をさらに進めることは必須でしょう。TPPは貿易と投資の双方の自由化なので相応の効果は期待できます。また、海外投資を呼び込むという点では法人税減税も効果的ですし、経済の浮揚には女性の活躍を促進することも大切です。さまざまな規制緩和を促進するのは良いことですが、1つの緩和で期待できるGDP上昇率はそう大きくはない。複合的で大胆な施策が必要ということです」

 ならば、アベノミクスで日本の経済成長率はどう転じていくのか。原田氏の試算はこうだ。

 「デフレ下では、物価が下がるから消費者は購入を控え、企業は投資を控えます。結果、日本は本来持っていた潜在成長率を実現できないでいました。第一の矢でデフレから脱すれば、潜在成長率を取り戻すことができるはずです」

 「今、日本の失業率はどんどん下がっていて、かつての5%から4%を切るところまできています。これが3%を切るレベルになれば、物価上昇率も2%程度に達するはずです。つまり、失業率が5%から2・5%に下がる過程で、インフレ懸念なしでGDPが増えていくわけです。失業率が2・5%まで下がるのに5年が必要として、私はその5年間でGDPが7%から8%アップすると見ています。たとえ、そのアップ率が5%であったとしても、5年間は現状の年率1%成長に1%の上乗せが期待できるということです」

年金維持は亡国の策

原田 泰(早稲田大学 政治経済学術院 教授・経済学博士)

原田 泰(早稲田大学 政治経済学術院 教授・経済学博士)

 アベノミクスには肯定的な原田氏だが、近著の『若者を見殺しにする日本経済』(ちくま新書)を読むと日本経済の長期的な先行きについては楽観していない。

 「以前、『子ども手当』が『ばらまき』と批判されましたが、私に言わせれば、年金も『ばらまき』。『老人手当』と言ったほうがいい。しかも、児童手当は3人目で1万5千円の支給でしたが、年金は月額20万円以上。これから5年から10年後には団塊世代が引退し、生産年齢人口は激減の一途をたどります。結果、成長率はまた1%台に逆戻りです」

 さらに原田氏はこう警鐘を鳴らす。

 「2040年には、日本の総人口の40%程度が高齢者で占められると予測されています。そうなれば、今の社会保障費を維持するのはまず不可能。私の試算では、社会保障費を3割削って、消費税率を20%にして何とかなるレベル。無駄を省くだけではなく、必要とされているところも削らなければだめなんです。

 働く人に課税して、働いていない人に分配していれば、経済成長率は落ちて当然。この部分の大改革を断行しない限り、日本の長期的な成長はあり得ないんです」

 

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