マネジメント

企業からの相談が多い銀行との約束

 取引相手との約束を守ることは、企業として、そして経営者として、対外的に信用を得るための基本条件です。その積み重ねが、取引相手との強固な関係構築につながることは、経営者であれば誰もが知っていることでしょう。

 ただし、銀行との約束の場合、後になって「約束をしたのではなく、させられた」と感じたり、「当初の約束とズレが生じているものの、恐ろしくて、それを切り出せない」でいたりと、どうもうまくいかないことが多いのではないでしょうか。

 筆者の会社に相談に来られる企業の話を総合すると、対応に悩んでいる銀行との約束事は、次の2つに集約されます。

  • 将来収益に関する約束
  • 銀行に「させられた」約束

  以下、それぞれについて対処の仕方を解説します。

銀行融資の極意① 将来収益の約束

 今日、銀行に経営計画を提出するのが当たり前になっています。その際、銀行が企業に求めるのは3~10年の中長期計画です。さりとて3年先、5年先、さらには10年先の売り上げや利益の予測を的中させるのは至難でしょう。とりわけ、企業の売り上げは、政治・経済・市場の動向はもとより、地震・台風などの自然災害によっても大きく変動します。

 ですから、経営計画に記載される売り上げ・利益は「計画作成時点で考えられる要素が盛り込まれたもの」であればそれでよく、当初の想定にはない事態の発生で計画と実績とにズレが生じた場合は、都度、修正すればよいのです。そして銀行をこわがらず、事情を説明すべきです。

 多くの銀行では、経営計画に書かれた数値が80%達成されていれば「まずまず」と考えます。100%達成とはいかなくても、達成できなかった原因を分析して銀行に説明することが大切です。

銀行融資の極意② 「させられた」約束

 この種の約束について、3つの観点から考えてみます。

 (1)契約上の約束

 契約自体が違法でないかぎり、契約書に記載されていることは絶対です。

 例えば、最近まで、「銀行が半ば強制的に売りつけたデリバティブ商品が企業に損失を与える」ケースが多発し、社会問題となっていました。

 このトラブルに見舞われた企業は、いくら本業で利益を出しても、為替損失などで赤字となり、資金繰りが立ち行かなくなる場合があります。

 とはいえ、デリバティブの契約書を銀行と交わした以上、たとえそれが無理強いされたものでも、企業サイドの言い分は100%通らないでしょう。

 なので、いかなるときも「リスクを十分に理解したもの以外は決して契約しない」という基本に立ち返るべきです。前回も触れたとおり、銀行が「お金の貸し手」という優越的地位を乱用することは法的にできません。不本意な契約を結ぶ必要はないのです。

 (2)「常識」として暗黙のうちに交わされた約束

 例えば、「融資を受けている銀行でつくった定期預金は、それが担保になっていなくても、自由に解約できない」――そんな暗黙のルールが、企業と銀行との間で「常識」化しているケースがあります。

 ただしそれは、銀行にとって都合の良い常識でしかありません。定期預金を解約されると「融資返済が不能になった相手からお金を回収するときに面倒」といった理由から、そんな常識を勝手に作り上げているだけなのです。

 担保に入れていない定期預金は、企業側の判断で自由に解約できます。銀行の言うところの「常識」はまず疑ってかかること。それが、自分の会社を守ることにつながります。

 (3)銀行の言われるままに交わした約束

 銀行に提出する経営計画書や融資申込書などで、「○○します」と明記したこと、あるいは、経営者が銀行員に口頭で伝えたことは、銀行側はしっかりと記録し後々のために残しています。ですから、それらの約束が後の事情の変化で果たせなくなった場合、その理由説明を銀行側にキチンと行うことが大切です。そうしなければ、銀行からの信用を失い、結局損をすることになります。

銀行と向き合い、できない約束はしない

 つまり、大事なのは、銀行から逃げずに、事情を説明して今後の対応を話し合うことなのです。例えば、経営計画書に「人員を3名削減します」と書いたものの、事業が好転し、人手が足りなくなるケースもあることでしょう。

 そのようなときにも、「3名削減」の約束は事情が変わり、取り止めたと銀行に説明すればいいわけです。

 これまで述べてきたとおり、銀行と約束事を交わす上では、「できない約束はしない」、「断るべき時は断る」という姿勢が大切です。また、事情の変化で約束が果たせない場合も、しっかりとそれを説明すれば、銀行側も分かってくれます。

 これらの点に留意して、銀行と向き合う。それが、銀行からの信用を大きくし、銀行が安心して融資できる企業になるための道なのです。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る