政治・経済

NECのインターネットサービスプロバイダー事業会社のビッグローブが独立した。事業自体は安定的な収益を上げていたが、グループ全体の戦略から外れる形でファンドへ売却された。今後他社でもこうした事業の分離・独立は進むと思われる。ビッグローブはどこへ向かうのか。文=本誌/村田晋一郎

非コア事業と位置付けられ独立

 日本の電機メーカーが苦境の中で活路を見いだそうとしているのが、一般消費者向けのBtoCのビジネスモデルから、企業・法人向けのBtoBのビジネスモデルへのシフトだ。

 一般消費者向け製品だけでは、韓国・台湾メーカーとの価格競争に陥りやすく、収益を悪化させる原因となっている。このため、例えば、パナソニックは成長戦略の柱にBtoB事業を掲げている。一方で、BtoC事業は非コア事業として、整理・売却の対象となる。最近ではソニーが一世を風靡したパソコンのVAIO事業の売却を発表した。

 こうしたBtoC事業および非コア事業の切り離しは今後も進むものと思われる。では、切り離された事業はどうなっていくのか。今回その岐路に立たされているのが、NECグループのインターネットサービスプロバイダー(ISP)事業子会社だったビッグローブだ。

 この4月に、NECが約78%保有するNECビッグローブ株式を投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡。NECビッグローブはNECの資本から外れ、社名もビッグローブと改め、新たなスタートを切った。

 今回、NECはグループから切り離したが、決して赤字事業ではなかった。2013年3月期の業績を見ると、NECグループ全体の売り上げ3兆716億円に対して、NECビッグローブは約2%の841億円を売り上げていた。従業員1人当たりの生産性もグループの中では高かった。しかし、NECがBtoBへ事業の主力を移していく中で、ビッグローブ事業はグループ全体の中での成長戦略が描けないと判断された。

 NECグループから外れることになったが、NECビッグローブ時代から同事業を率いてきた古関義幸社長は強気だ。

 「ファンドが筆頭株主になったが、経営陣は変わっていない。また、販売チャネルやパートナーも変わっていない」と事業とリーダーシップの継続を強調。この点が独立の勝算になっているようだ。

 また、古関社長は、今回の独立をチャンスととらえ、近い将来の上場に意欲を示している。

 「再びどこかの資本に買われて、その一部になることは避けたい。現状で十分利益も出ており、上場レベルにある。上場という形でイグジットできればと思う。当面は3〜5年後の上場を目指す」

 VNOの身軽さを強みに展開

 では、ビッグローブは今後どう展開していくのか。

 ビッグローブのブロードバンド利用者数の12年のシェアは4位。上位のOCN、Yahoo!BB、au one netは大手携帯キャリアの関連会社であり、ビッグローブは独立系のISPとしてはトップになるが、大手キャリアの牙城を崩すのは容易ではなく、同じ勝負はできない。古関社長は、独立系の身軽さを生かす構えだ。

 ビッグローブは、光回線、モバイル、WiFiネットワークのそれぞれで、自前で回線を持たないVNO(バーチャルネットワークオペレーター)としてサービスを提供している。具体的には、光回線はNTT東日本やKDDI、モバイルはNTTドコモやUQコミュニケーションズ、WiFiはワイヤ・アンド・ワイヤレスやソフトバンクテレコムから回線を借りている。

 現在のインターネットユーザーは、光回線、モバイル、WiFiをそれぞれ別の事業者のサービスを利用しているケースが少なくない。ビッグローブはあまねくパートナーと協業するVNOの立ち位置から、これらを組み合わせて提供できることを強みにサービスを展開する。

 また、市場のトレンドもVNOに有利に動くと見ている。特にモバイル分野のMVNOについて、日本ではMVNOの契約数はモバイルの総契約数の約3〜4%と低水準だが、総務省の政策によって拡大傾向にある。欧米並みの10%まで達すると、MVNO市場は1千万人規模となる。その1割をビッグローブが獲得できたとすると契約数は100万人、1人当たり月額1千円程度の売り上げを見込んだとして、年間120億円となり、同社としては十分な売り上げ規模になる。現在の同社の契約数は20万人弱であり、当面は早期に100万人ユーザーの獲得を目指す。

 さらに独自の展開として、腕時計型のウエアラブル端末の開発を進めている。既存の腕時計型端末は、スマートフォンの補助的なデバイスとして、スマホとBluetooth接続して利用するのに対し、ビッグローブの開発品は3GおよびWiFiで直接ネットワークにつながるという。このネットワークへの接続を生かした独自のサービスを展開する方針。

 現時点では、ハードウエアにOSを載せて動かした段階で、製品化のめどは立っていない。今後サービスの開発やモニタリングを行うことになるが、「最短で半年、気持ちとしては年内に出したい」(古関社長)という。

 このウエアラブル端末は古関社長が2年前に発想したもので、今回の独立との因果関係はない。しかし、実現できれば、ビジネスを大きく飛躍させる可能性を秘めている。

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