政治・経済

著書『デフレの正体』(角川oneテーマ21)に続き、『里山資本主義』(同)もベストセラーとなった藻谷浩介氏。アベノミクスには辛口の同氏だが、日本経済の行方は決して悲観していない。/写真=佐藤元樹

日本経済は良くも悪くもなっていない

 アベノミクスにどんな効果があったのか。この問いに、藻谷浩介氏はさらりとこう答える。

 「大山鳴動鼠一匹とはこのことでしょう。小売販売額も、就業者数も、安倍内閣の2013年と野田内閣の12年を比べて、ほとんど増えていません。好景気に実感がないのは当たり前です。安倍さんは、政権奪取前には景気を悪い悪いと言い、奪取後には良い良いと言っているのですが、実際には、その前から悪くもなかったし、その後も良くもなっていません。唯一の大きな変化は、円安で貿易赤字が膨らんだことぐらいですかね」

 とはいえ、日本企業の平均株価は上昇している。これは日本経済が好転している証拠ではないのだろうか。しかし、藻谷氏によれば、株価上昇も錯覚にすぎないらしい。

 「昨年の日経平均は、年間平均で1万3600円。これは1994年以降の20年間で11位にすぎません。第1次安倍政権当時には1万7千円を超えていたのに。これだけ極端な金融緩和をしても、内需も拡大しないし雇用も増えないという寂しい事実に市場は気付いています。ただ、円安で貿易赤字が拡大することに、事前に気付かなかった人が多かったのは残念でした」

 これは実に興味深い点だろう。経済学の基本では、為替安は輸出を増やす「特効薬」であり、円安誘導で貿易収支は良くなるはずだからだ。

 ところが今日の日本では、その理屈は全く通用しないと、藻谷氏は言う。

 「日本の輸出はここ数年間は60兆円台。プラザ合意前やバブルの頃の1・5倍もの水準です。にもかかわらず貿易赤字なのは、輸入原材料が高騰しているからです。特に化石燃料の輸入は、94年ごろは5兆円弱だったのが、13年は27兆円にまで膨れ上がりました。粗利が逆ザヤになっているのに、『製品の値下げによる売り上げアップ』を追求すれば、赤字が拡大するのは当たり前です。収支予想の基礎の基礎ですよ」

 リーマン・バブルの08年、日本の輸出は史上最高の80兆円だったが、輸入も77兆円で、当時から黒字がほとんど出ていない状態だったと、藻谷氏は指摘する。

 「一部のマスコミや政治家は原発の停止が赤字の原因だと世論を誘導していますが、昨年の石油・ガスの輸入量は、実は原発事故前の10年と変わっていない。省エネが進んだためです。昨年の輸入増加11兆円のうち、化石燃料は3兆円で、火力発電関係はさらにその一部にすぎません」

 21世紀型の田舎で新たな人生を

藻谷 浩介(日本総合研究所 調査部 主席研究員)

藻谷 浩介(日本総合研究所 調査部 主席研究員)

 アベノミクス効果を「集団幻想」と指摘する藻谷氏。一方で、近著の『里山資本主義』では、日本の未来について明るい展望が語られている。

 「今の日本では、ものすごい田舎でも十分幸せに生きていけるんです。都会に比べ生活コストは極端に低いにもかかわらず、収入の道は多様化し、インターネットや舗装道路など、都市型インフラも完全に整備されています。コンビニやホームセンターなどのライフライン系についても民間ベースで十分に回っているんです。だから、昔ながらの日本的な暮らしに回帰しましょうと言っているのではありません。21世紀的な田舎で、新しい生き方をしてみてはと提案しているわけです」

 藻谷氏の言葉を借りれば、都会人は今の田舎についてあまりにも無知であり、そこに問題があるという。豊かだとされていたバブルの頃に比べてさえ、今の田舎は良くなっていると藻谷氏は説き、こうも続ける。

 「都会の人の中には、地方には無気力で、やる気のないやからが大勢いて、金食い虫のようなものだと言う向きがいます。でもそれは、都会の多くの企業人も同じでしょう。既得権に乗っかって、特に付加価値を生もうともせず、逃げ切ることばかりを考えている。東京も田舎から還流する公共投資で食べているのです。時折、東電のように会社の生死にかかわるような事態に見舞われると、社員たちの状況不適応が起きますが、事が過ぎるとすぐに元に戻ってしまいます。金融危機の時の銀行もそうでしたが、今は元に戻って『半沢直樹』の世界ですよね」

 田舎との対比の中で、大企業組織の無気力さを鋭利に突く藻谷氏。同氏は、「田舎の人は、しがらんでいる」との批判も、「それを言うなら、都会の遠距離通勤も長時間残業もしがらみの結果そのもの」と一刀両断にする。そして同氏は、話の最後をこう締めくくる。

 「いったん東京で組織の限界を見極めて、ある程度お金も貯めて地方に行き、クリエイティブな仕事をしている人って、皆さんすごくハッピーに暮らしているんです。より多くの人に、それに気付いていただきたいですね」

アベノミクスの主眼は格差拡大にあり—森永卓郎

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