政治・経済

千葉商科大学学長でエコノミストの島田晴雄氏は、アベノミクスの滑り出しには肯定的だ。しかし手放しの礼賛ではない。真の成長のカギは、旧態依然としたシステムの破壊にあるという。(写真=佐藤元樹)

 民間が230兆円を使えば…

 「安倍政権が発足してから1年と4カ月。日本の経済は、確かに明るくなってきましたね」――千葉商科大学の島田晴雄氏は、アベノミクスの出だしをこう評価する。ただし、勝負はこれからと、同氏は言う。

 「本当の勝負は、真の経済成長が実現されるかどうか。アベノミクスが真の経済成長を成しえるかは未知数です。政府の成長戦略にしても今年6月に作り直される。その中身が明らかになるまでは評価のしようがありません」

 「加えて、第一の矢である『大胆な金融緩和』にしても、大成功のように言われていますが、これは『異次元的な金融緩和の断行』というフレーズが世界中の過剰反応を引き起こした結果にすぎません。要するに、メッセージに反応した投機家たちが『円の先物売り』を行い、その結果、円安が進行。円安が進んだことで、『利益が出るだろう』と、日本の輸出関連企業の株が買われ、株価が少し上昇しただけのことなんです。事実、株高と言っても、2012年11月から13年5月にかけてまずまずの上昇が見られただけで、以降は、目立った動きがないのが現実です」

 さらに、アベノミクスの大胆な金融緩和で、日銀による「政府赤字の際限のないファイナンス」が始まるおそれもあると、島田氏は危惧する。

 「第二の矢の財政出動で、財政再建計画はかなり心もとない状況に追い込まれています。14年度と15年度は何とかなるでしょうが、それでもギリギリの線。何かのきっかけで、日本の国債が暴落する可能性も高まっています。そう考えれば、実質4%のGDP成長が必要とされるのではないでしょうか」

 ならば、安倍政権が繰り出す成長戦略に4%成長を実現する力は期待できるのか。この問い掛けに、島田氏は、「安倍政権の成長戦略にすべてを期待すること自体が間違っている」と切り返し、次のように説く。

 「経済というのは、民間の消費・投資などが9割を占め、財政は全体の1割にすぎません。したがって、民間が政府の戦略に寄りかかろうするのは完全に間違っています。そうではなく、自分たちのしたいことを、政府に邪魔をさせない、あるいは、後方から支援させるようにするのが民間のあるべき姿でしょう。ところが、日本の民間企業は総額230兆円ものキャッシュを内に抱え込みながら、なかなか積極的に動こうとしません。アベノミクスで経済全体がインフレに転じようとしている今、民間企業から自分たちの資金をどう使うかの話が出てこないのは問題でしょう」

 一方、東京オリンピックや新・新幹線(リニア)などに対する期待値は高いが、そこに「高度成長時代の夢をもう一度」という、ある種、都合の良い思考や姿勢が見受けられなくもない。

 「そもそも、『三丁目の夕日』の時代と今とでは何もかもが違います。当時は人口が毎年2%ずつ増えていましたし、労働生産性も8%ずつ向上していました。規模の経済が働き、技術革新も進み、新商品も相次ぎ登場。戦争に負けた屈辱も必死に新技術を取り入れる気概へとつながっていた」

 「対する今の日本では人口が減少へと向かい、消費も飽和状態。政府の経済施策だけで、『日本を取り戻す』ことは困難と言わざるを得ません」

 「三丁目の夕日」をもう一度見るために

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島田 晴雄(千葉商科大学 学長・Ph.D.)

 ではどうすれば、高度成長期の勢いを取り戻すことができるのだろうか。そのアイデアを島田氏はこう示す。

 「日本の都市も、農業も、学校教育も、あらゆるサブシステムが50年前のままで何も変わっていません。そうした古いシステムを『変えたい』、『変えよう』、さらには『変えて何かを始めよう』とする気概や熱意があれば、かつてのような成長を実現することも不可能ではないんです。例えば、都市について言えば、規制の厳しいパリですら、建物の高さの平均は6階ですが、東京は2・5階。結果、東京で働く多くの人が片道1時間30分以上という『痛勤』を強いられています。土地利用規制や建物の高度制限などを大きく緩和すれば東京の住宅地の中・高層化が進み、東京で働く人と暮らす人の数が一致することになるはずです。『痛勤』が解消するだけでも、生活水準は大幅に向上しますよ」

 さらに、高齢者市場という「新大陸」も成長の起爆剤になり得るという。

 「高齢者の多くは経験と知恵、人脈も豊富で、財産も結構ある。もし、人の加齢に伴う衰えを科学技術で補うことができれば、高齢者はもっと活躍できるでしょう。また、お年寄りが『生きていて良かった』と思えるような技術が登場すれば、彼らはそれにどんどんお金を使うでしょう。お金が社会に循環し、世の中が明るくなるんです」

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