政治・経済

「外資による支配」のイメージはない

 風邪薬の「エスタック」、頭痛・生理痛薬の「イブ」、シミ・そばかす治療薬「ハイチオール」などで有名なエスエス製薬。創業は1765年、現在の岐阜県で始まった漢薬本舗「美濃屋薬房」が前身だ。1927年には株式会社瓢箪屋薬房として大衆薬の製造を手掛けた。問屋による支配を嫌い、小売薬局への直接販売で全国に展開し、ここで広がった会員組織が、後の強力な営業基盤となる。

 日本人には馴染み深いエスエス製薬だが、2010年に、ドイツの製薬会社ベーリンガーインゲルハイムの100%子会社となっている。両社の協力関係は、1982年に薬用歯磨き粉「ラカルト・ニュー5」の販売をエスエス製薬が手掛けたことに始まり、以後、資本業務提携を拡大してきた。

 11年1月にベーリンガーインゲルハイム ジャパンの社長就任と同時に、エスエス製薬を含むグループ会社4社の会長に就任した鳥居正男氏はエスエス製薬のプロパーではなく、外資系製薬会社で長年にわたりキャリアを築いてきた人物だ。

 日本の有名老舗企業と外資系企業。つい、文化的な摩擦があるのでは、と想像してしまうところだが、鳥居氏はこう言う。

 「エスエス製薬に初めて来た時の印象としては、社員が一生懸命頑張っているなと。私が来たのはベーリンガーインゲルハイムグループ入りする時期でしたが、社内の変化に対して混乱していた感じは全くなくて、社員は変わっていく環境の中、状況がいい方向に向かうよう何とか解決策を積極的に探そうという姿勢が目立ちました。社員の間にエスエス製薬という会社への愛着が感じられ、その印象が何より大きかった」

 ベーリンガーインゲルハイムも実は2015年に創業130年を迎える老舗企業。社風は日本企業に近いという。同社が株式非公開である点も、エスエス製薬にとってメリットは大きかったようだ。短期的な成果にこだわらず、長期的な視野に立ってじっくり研究開発や人材育成を行うスタンス、社会貢献活動に熱心なところなど両社の共通点は多い、と鳥居氏は説明する。

 「私自身の役割は、日本の仲間が仕事をしやすいようにする環境づくりだと思っています。雰囲気は両社とも変わらないので、外資による支配というイメージは社内にはありません。さらに、顧客重視という点でも価値観が似ています。そもそも、何も変える必要がないくらい共通点が多いのです」

 スイッチOTC市場で存在感を増す

0508_20140513_tokusyu2

鳥居正男(とりい・まさお)
1947年生まれ。神奈川県出身。75年上智大学国際学部経営学修士課程修了。92年米ハーバードビジネススクールAMP修了。71年日本ロシュ入社、92年同社常務取締役、93年仏ローヌ・プーランローラー日本法人社長、95年米シェリング・プラウ日本法人社長などを経て、2010年日本ベーリンガーインゲルハイム取締役に就任。11年1月から現職。

 鳥居氏が強調する顧客志向という点に関しては、前述したエスエス製薬の歴史に根差す部分が大きい。前述のとおり、消費者と直接かかわりを持つ小売店との共存共栄を図ってきたお陰で、深い信頼関係が築かれていることを鳥居氏は実感しているという。こうした顧客への浸透度の高さを考慮し、日本における主力製品に関してはエスエスブランドを継続している。

 今後、両社のシナジーが発揮できる分野の1つとして、医療用医薬品成分をOTC薬に転用したスイッチOTCや、新規有効成分が医療用医薬品としての承認を経ずに一般用医薬品として直接承認されたダイレクトOTCを鳥居氏は挙げる。エスエス製薬は既にアレルギー専用鼻炎薬の「アレジオン10」や、足のむくみ改善薬「アンチスタックス」などで、スイッチOTCやダイレクトOTCの実績がある。日本でのセルフメディケーション推進の流れに乗り、ベーリンガーインゲルハイム製品のスイッチやダイレクトを強化する方針だ。

 「例えば、アンチスタックスは、日本では初めて西洋ハーブを使用した製品としてかなり関心を集めました。日本の医療用医薬品メーカーでOTCの販路を持っているところは少ないので、実績のあるエスエス製薬がスイッチOTCやダイレクトOTCの受け皿になれるでしょう。ベーリンガーインゲルハイムグループに入りこの分野でエスエス製薬の立場が強まったことで、波及効果が期待できます」

 消費者の薬に関する知識の増加、量販店の勢力拡大など、日本におけるマーケット環境は以前とは大きく変わっている。こうした中、現在のニーズだけでなく、将来的にどのようなニーズが出てくるのかを探っていくことが重要だと鳥居氏は指摘する。

 「ビジネスモデルの変革期なので、どうしても親会社が変わったからエスエス製薬も変わってしまったと思われがち。そうではなく、環境の変化に対応しているということを、理解していただくことが必要になります」

 製品に対する目が厳しい日本の消費者を相手にすることは、ベーリンガーインゲルハイム本体にとっても得るところは大きい。日本のOTC市場は難しいと言われる中、和洋の相乗効果でシェア拡大を目指す。

(文=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長プロフィ…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

一般には馴染みが薄い産業廃棄物処理の世界。古い慣習が残る業界を、ITによって変えようとしているのがトライシクルの福田隆社長だ。業界の老舗企業がテクノロジー導入に舵を切った背景と今後の展望を聞いた。(吉田浩) 福田隆・トライシクルCEOプロフィール   産廃処理で「B to B版メルカ…

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る