政治・経済

 金融緩和を縮小する背景

 米国経済は力強い回復をみせているわけではない。リーマンショックから何とか立ち直った2010年から13年にかけての平均成長率はプラス2・3%で、前回景気回復局面である03〜06年の平均成長率プラス3・2%を1%ポイント近くも下回った。また、13年の実質GDP成長率はプラス1・9%と2%を割った。

 足元14年1〜3月期も冴えない。1〜3月期の非農業部門雇用者数の月平均の増加数は17・8万人で、12年、13年の同時期の増加数(それぞれ27・6万人、20・6万人)を下回った。

 米国経済の成長速度は鈍化傾向にあるにもかかわらず、イエレン新議長率いるFRB(連邦準備制度理事会)は、量的緩和(長期債購入)縮小を継続する姿勢を示している。この4月から月額の長期債購入額は550億㌦(昨年12月までは850億㌦)に減額されるが、市場では11月にも長期債購入が停止、早ければ来年半ばまでには利上げが行われる、という見方がコンセンサスになっている。

 FRBが量的緩和とゼロ金利政策を打ち切ろうとする目的は何なのか。それは、ずばり、資産バブル再発(あるいは深刻化)の回避であろう。

 〝喉元過ぎれば熱さを忘れる〟ではないが、リーマンショックから5年半の月日が経過した今、既にリーマンショックの風化を感じている人も多いだろう。しかし、FRBを含めた米国の政策当局者の間に〝風化〟はなく、資産バブルの発生と崩壊が金融システムにダメージを与えることを警戒する動きが続いている。金融機関に対する規制・監督の強化が良い例であり、米国では、大手金融機関による金融商品のトレーディングやヘッジファンドへの融出資が厳しく規制されることになった。また、大手金融機関の成功報酬制がトレーダーなどの過度なリスクテイクを促進したという反省から、定額報酬制への移行も進んだ。

 ここで重要な点は、規制や監督を強化しても、それだけでは資産バブルの発生を予防できないということだ。FRBが金融システムに膨大な流動性を供給し続ければ、どうしても不動産価格や株価が上昇する。資産バブル膨張の抑制・予防のためには、規制・監督のみならず、FRBが超金融緩和を是正する必要がある。

 資産バブルが既に進行

 問題は、米国で既に資産バブルの兆候がかなりあり、低成長化している問題を無視してでもFRBが超金融緩和の是正に踏み込むべきかどうかだ。

 米国の不動産価格は11年春を底に既に3年程度上昇傾向にあり、累積上昇率は全米平均で3割弱に達した。北東部、カリフォルニア、ハワイなどでは上昇率が5割を超えている地域もある。住宅価格前年比が10%程度で伸びた場合、今年の夏場には、全米平均の不動産価格がリーマンショック前のピークを超える可能性が高い。

 懸念されるのは、不動産価格の上昇が個人の銀行借入を刺激し始めたことだ。不動産価格上昇によって担保価値が拡大したため、銀行の貸出態度が緩んだことが影響している。不動産価格上昇、銀行借入増、消費増というメカニズムは一見望ましいようにもみえるが、不動産価格が過度に上昇すれば、不動産販売が大きく低迷し、不動産価格が暴落、結果として個人向けの不良資産が増加する。

 また、米国の株価はかなりの割高状態にあり、株価利益率(PER)が危険領域に入ってきている。ノーベル経済学者であるイエール大学のロバート・シラー教授が作成している、企業利益のトレンドとインフレ率を調整したPER(通称CAPEと呼ばれている)は3月末現在で25・2倍である。歴史的な経験から、このPERが22、23倍を超えるとバブル的な色彩が強まっているとされ、27倍程度に達するとバブル崩壊一歩手前とみられている。

 不動産市場や株式市場の過熱や深刻なバブル化を何とか回避することを目的としたFRBの超金融緩和是正によって何が起こるのか。

 最もあり得るシナリオは、不動産価格や株価が下落し、米国経済の成長速度がさらに幾分低下することであろう。米国経済は、14年、15年ともにプラス2%成長を達成できないのではないか。ただ、米国経済が日本経済のようなデフレ状態に陥るとは考えにくい。高齢化の影響で労働力人口の伸びが急激に低下したため、成長率がプラス2%を下回っていても、足元で6%台後半にある失業率は15年末には6%弱にまで下がっているとみられ、賃金の前年比はプラス2%程度は確保できているはずだ。

 〝2%に満たない低成長だが、デフレではない経済〟というのが米国経済のニューノーマルである。しかし、その過程、特に今後半年程度に関して言えば、米国の金融・資産市場はかなり荒れる展開になるだろう。FRBがバブル叩きを早めに実施するため、不動産価格や株価の〝谷〟は浅めになっても、「米国長期金利上昇・ドル高→米国不動産価格・株価下落→米国長期金利低下・ドル安」というプロセスはスキップはできない。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界9月号
[特集]
人材恐慌 この危機をどう乗り切るか

  • ・企業が脅える人材恐慌最前線
  • ・人材不足の処方箋 働き方改革でどう変わる?
  • ・加藤勝信(働き方改革担当大臣)
  • ・神津里季生(日本労働組合総連合会会長)
  • ・中田誠司(大和証券グループ本社社長)
  • ・若山陽一(UTグループ社長)

[Interview]

 松本正義(関西経済連合会会長)

 2025大阪万博で関西、日本は飛躍する

[NEWS REPORT]

◆第4次産業革命に走る中国、遅れる日本 松山徳之

◆格安スマホに対抗しauが値下げ これから始まるスマホ最終戦争

◆減収続くも利益率は向上 富士通・田中社長の改革は本物か

◆破綻からわずか2年 スカイマークが好調な理由

[政知巡礼]

 野田 毅(衆議院議員)

 「社会保障の安定した財源は消費税しかない」

ページ上部へ戻る