政治・経済

 1842年、京都伏見で個人商店として産声を上げた宝ホールディングスの前身である寶酒造。清酒からスタートした同社だが、1864年には焼酎・みりんなどの製造を開始、さらに大正期には、新式焼酎の開発者である大宮庫吉氏を迎え入れたことで業容を拡大、経営基盤を確立する。

 その後も関東大震災や昭和の経済恐慌など、幾多の試練を乗り越えてきた同社だが、1957年、大手3社の寡占市場だったビール事業へ参入したことが原因で、一転、経営危機に見舞われる。ビール事業は10年後の67年に完全撤退することになるのだが、この教訓から学んだことを反面教師とし事業拡大に注力。中でもバイオ事業では多くの成果を収め、同社の将来を担う中核事業として期待されるまでとなった。

ビール事業参入で得た経営の教訓

 弊社の創業は天保13年(1842年)と172年目を迎えましたが、その間の歴史をひも解けば、まさに山あり谷あり、常に緊張感と背中合わせだったと言ってもいいでしょう。

 中でも弊社が教訓としているのは、1957年に販売を開始したビール事業での失敗です。それまで弊社の主力事業は甲類焼酎の販売でした。しかし、戦後国民の生活は西洋化へと傾いていきました。甲類焼酎は売れてこそいましたが、昭和30年代をピークに減少基調が鮮明となります。当時の会長、祖父の大宮庫吉はビール需要拡大を予想、焼酎に続く第2の柱の構築に着手します。

 その後ビール市場は急拡大、弊社が参入する意義は十分でもありました。しかし、当時、ビール市場は強固な特約店制度が敷かれており、キリンビール、アサヒビール、サッポロビールの3社による寡占状態でした。その専売制度の壁を打ち破ろうと努力しましたが、それは叶いませんでした。

 ビールを販売してもらえないという苦しい状況の中、ビール事業の赤字は年を追うごとに拡大、経営を圧迫し続けていたのです。経理担当の役員だった父(大宮隆)の手記を読むと、資金繰りの苦労など、会社の危機的状況を読み取ることができます。

 懸案だったビール事業は父が社長になった翌年の67年に販売を停止しましたが、課題として残ったのが売り上げ以上に膨れ上がっていた資本金です。

 対応策は唯一売り上げを伸ばし財務内容を良くするということでした。そのためには既存の焼酎甲類、みりん、「松竹梅」を擁する清酒、原料用アルコールといった主力事業を再構築することと、新規事業として発酵技術を利用した抗生物質を開発することでした。

 話は前後しますが、今や清酒2位ブランドに成長した「松竹梅」ですが、70年からイメージキャラクターになっていただいた俳優の石原裕次郎さんの存在なしに、この成功は語れません。

バイオ事業が経営の柱に

大宮 久(おおみや・ひさし) 1943年生まれ。66年同志社大学商学部卒業。66年寶酒造(現宝ホールディングス)入社。74年開発部長を経て取締役就任。82年常務取締役、88年専務取締役、89年バイオ事業部門長、93年6月代表取締役社長就任。2002年宝ホールディングス社長就任。12年代表取締役会長に就任。

大宮 久(おおみや・ひさし)
1943年生まれ。66年同志社大学商学部卒業。66年寶酒造(現宝ホールディングス)入社。74年開発部長を経て取締役就任。82年常務取締役、88年専務取締役、89年バイオ事業部門長、93年6月代表取締役社長就任。2002年宝ホールディングス社長就任。12年代表取締役会長に就任。

 新規事業として意気揚々と参入した医薬品ですが、これも困難を極めることになります。会社の方針であった発酵技術を利用した抗生物質分野では、既に同業他社が先行しており、出遅れ感も否めず、何をしてもうまくはいきませんでした。

 実は、入社以来、この分野を担当させられたのは私です。来る日も来る日も抗生物質に代わる良いテーマはないか探し続けました。そこで巡り合ったのがバイオです。当時はバイオと言っても認知度は低く、社内では疑心暗鬼の目で見られたものですが、私は、藁にもすがる思いで抗生物質から一気にバイオ事業に舵を切りました。

 まずはバイオ試薬からということで品揃えに取り掛かり、今やその試薬品は7千品目にも達し、バイオ事業の中核ですが、販売を開始した79年には4品目で月の売り上げは15万円程度と社内からは非難の声も強かった。しかし、苦労して7千品目にまで拡大した試薬品を有していることは、逆に他の追随が困難で今では非常な強みともなっているのです。

 現在、バイオ事業は、酒類・調味料事業と並ぶ看板事業として認知されていますが、当時は、名実ともに事業と言えるまで育てられるという100%の自信があったわけではありません。先見の明というよりほかに選択肢がなかったというのが本音です。

 弊社が、これまで存在できたのは、ビール事業が象徴的ですが〝失敗に学んだ〟ことに負う部分が大きい。新規事業に参入する時は、まず、勝てる分野であること、そして自分より強い競合がいない分野、最後に競合が出現しても追い付きにくい分野ということを教訓として学んだ点にあると言っても過言ではありません。

(文=本誌・大和賢治 写真=宇野良匠)

 
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