文化・ライフ

大学病院が得をする〝博士〟のカラクリ

 iPS細胞よりも簡単に臓器再生を可能にすると思われたSTAP細胞――その驚きと期待もつかの間、研究者と研究所のドタバタ劇を見せられ、がっかりさせられた。果てには、研究者の博士論文にまで疑念が向けられ、博士号の価値も問われ始めている。

 この騒動を眺め、「さもありなん」と思うのは、私だけではないだろう。

 例えば、「医学博士」。世間一般では、この称号に対する尊敬の念がまだまだあるようだが、一方で、「医学博士号は足の裏の米粒に等しい」と陰口も叩かれてきた。そのせいか、今の若い医師たちは医学博士号ではなく専門医の資格を取ることに力を注ぎ、医学博士号を取得しようとする医者の数は減っているという。

 少し前まで、医学博士の制度は、医者を医局に縛り付けるための便利な手段であった。

 医者は2年間の研修を終えると、医局に所属して病院で働くか、大学院へ行きそこで医学博士の論文を書くかのいずれかの道に進む。

 ただし、医学部の大学院には、ほとんどの場合、特別な建物や研究施設はない。そのため、かつての私も含め、医学博士を目指す医者たちは皆、医局に所属し、大学院の学費(年間60万円ぐらい)を支払いながら、病院でタダ働きをしていたのである。大学院生だからと言って、特別扱いされることはほとんどなく、研究する時間は午後6時以降のことが多かった。

 大学病院にとっては、無償で働いてくれて、なおかつ大学にお金まで支払ってくれる医者が使えるのだから、これほどありがたい話はない。ただし、医者のほうにも打算があった。大学院に行けば、ほぼ自動的に医学博士号が取れるという打算だ。

医局主任教授の大事な収入源

 医学博士を目指す医者は、医局における主任教授の重要な収入源でもあった。

 博士論文の研究のネタは、原則として、教授や助教授が提供し、上司が部下の指導に当たるのが原則だ。しかし「指導」とは名ばかりで、出来の悪い部下に成り代わり、上司が博士論文をすべて書いてあげるケースも少なくなかった。

 博士論文の審査は医局の主任教授が行い、副査は、主任教授の仲間の教授に頼むことが多い。その場合、主任教授を含め50万円から100万円の謝礼を後から差し出すのが通例だった。

 さすがに、最近では、そんなことは行われていないだろうが、当時はそれが普通のこと。なので、自分の医局に数名の大学院生を抱えていれば、主任教授は毎年かなりの謝礼を受け取っていたはずだ。

 論文騒動はまた起こり得る

 断っておくが、私は謝礼金や大学院制度について批判したいわけではない。問題にしたいのは、博士論文が研究論文としてほとんど無価値になっていることだ。

 博士論文を審査する側も、論文としての形式が整っているか、あるいは、参考文献の書き方はルールに則っているかなど、形式部分のチェックに終始し、肝心の中身についてはさしたる点検はしない。

 このように、医学の大学院で4年もの歳月をかけて無価値な研究論文が作られていき、教授の収入を潤すだけで終わるというのは問題だろう。

 冒頭部分でも触れたとおり、現在、STAP細胞の研究論文を書いた人の博士論文の内容が問題視されている。

 ただし、私に言わせれば、博士論文なんて、所詮、あの程度のものなのである。しかも、これは医学界・医学部に限った話ではなく、他の学部でも同様であるらしい。

 中には、「博士論文を書き上げることで、研究者としての基本が学べる」という方もおられる。

 だが、基本を学ぶにしては、時間とお金が掛かり過ぎるし、大学院での授業・教育も少な過ぎる。国からの補助金も出ているのだから、4年間の教育成果が無価値な論文では、税金の無駄遣いと言わざるを得ないだろう。

 博士論文を書き上げる段階できちんとした教育を受けていれば、写真の転用や文献のコピペが許されないことぐらいは分かる。逆に、大学院が本当の研究者を育てられないなら、STAP細胞をめぐる今回の騒動のような事件がまた起こる可能性がある。

 日本の大学院が、博士号の価値を本当に高めたいのなら、論文の審査を学内審査ではなく、第三者機関に委ねたほうがいい。これにより、博士論文が主任教授の利権から切り離され、中立的な論文として、価値が高まっていくはずだ。研究者の研究は、客観的な科学の視点が失われた時点で、単なる思い込みになる。そこから革新的な研究が生まれることはない。

 博士論文をめぐるさまざまな問題は、日本の科学の現状を象徴しているのかもしれない。

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