テクノロジー

 理化学研究所論文が世界中を騒がせた。世界でも指折りの研究所から、しかも若き女性研究者から、非常に魅力的な成果が出て来たのだから、それが幻となると国民の落胆も大きい。

 理化学研究所には、実績のない若手でも、「仮説」に魅力があれば、挑戦的な研究機会をあえてやらせてみる雰囲気がある。

 今回の失敗でこのパイオニア精神が後退することがあってはならない。iPSの山中教授も「若手の挑戦」を可能にした奈良先端科学技術大学や科学技術振興機構の支援が必要だった。失敗はつきものだ。

 研究室時代、私は学生たちが「ねつ造」の誘惑に負けはしないかと常に心配していた。研究では「仮説」を立て、「実験」により「検証」する。仮説を肯定する実験結果が出ると学生は喜び、外れると「自分の実験が失敗したのではないか」と考える。

 実験結果はばらつく。もう一度実験して、今度は予想により近い結果が出たとする。学生は今回の結果を採用し、前の結果を棄てたがる。これが「改ざん」の始まりである。嵩じると「ねつ造」の域に発展する。

 科学は「事実がすべて」である。どんなに仮説が素晴らしくても、実験事実のほうが強い。私は口を酸っぱくして学生たちに警告せざるを得なかった。

 理化学研究所の今後の対策として、倫理教育や実験ノート指導だけでなく、大切なデータの複数者による取得、管理、あるいは、重大な結果が出た時に第3者による再検証を制度化することが迫られよう。ねつ造問題に悩んでいる海外諸国にも模範となる必要がある。事件を起こしたリーディング研究所の責任の取り方である。

 これまでも、メンデルの遺伝の法則や、ノーベル賞をもらったミリカンの電荷素量を決めた実験などにもねつ造があったとされる。高温超伝導分野でも10年ほど前、史上空前のねつ造事件が米国ベル研究所の若者によってなされた。一時はノーベル賞確実とされる16以上の「素晴らしい」論文が次々と発表された。すべて架空のデータであった。日本でも年間数件程度は大小のねつ造事件が取り沙汰されていた。

 しかし、科学には「自浄作用」がある。不正は数年のうちに判明し、正される。それが科学の救いだ。今回の事件は後を引く可能性があるが、若手研究者への警告にもなってほしい。

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