マネジメント

滝 一夫・タキヒヨー社長プロフィール

滝 一夫・タキヒヨー社長

滝 一夫(たき・かずお)1960年生まれ。86年3月ニューヨーク州フォーダム大学卒業後、ワールド入社。90年3月タキヒヨーに入社、百貨店事業部、テキスタイル事業部を経て2004年5月取締役就任、。08年3月常務取締役、11年3月社長に就任

260年以上の歴史を持つタキヒヨー

 創業1751年(宝暦元年)と263年の長い伝統を誇るのが名古屋の老舗繊維商社のタキヒヨーだ。京呉服・絹織物卸業としてスタートを切り、以来、衣料品業界を取り巻く環境の変化と共に業容を変革させながら規模を拡大、今なお、業界に大きな影響力を持つ。

 そんな同社の現在の主力事業はアパレル(ODM)、それまで業容拡大を牽引してきたテキスタイル事業をはるかにしのぐ規模にまで成長している。時代の波に翻弄されながらも同社が生き残ってきたのは常に「お客さま第1」を経営理念とし、実践してきたからにほかならない。

 さらには「常に新しいことにチャレンジする」ことを従業員に課すことで、切磋琢磨の社風が根付いていることが強みともなっている。

 

滝一夫氏が語るタキヒヨーの存続理由とは

 

物事を丁寧に考え、丁寧に扱う会社

 市場がここ10年で、大きく様変わりしたという意味で筆頭と言えるのは衣料品業界ではないか。SPA型のファストファッションの台頭から、最近はネット通販取扱高の急拡大など、多様化する消費動態への対応を常に迫られてきた。

 そんな中で、なぜ、タキヒヨーが元気なのか。この問いに対し同社の滝一夫社長は、「常に変化と進化を忘れず物事を丁寧に考え、丁寧に扱う会社だからです」と躊躇なく答えた。一見して、漠然とした答えともとれるが、しかし、取材を進める中で、その言葉の本質を認識することになる。

 そもそも滝氏が言う〝丁寧〟とは、作ってほしい商品を協力企業に丸投げするのではなく、素材の選定から製造工程まで自社で深くかかわることを指す。

 本来、発注した商品というのは、消費者の潜在ニーズをくみ取った上でのもの。単に丸投げしてしまえば、想定した商品をリアルに実現できない。どんな糸を使い、撚糸をどうするか、織り方は……など、さまざまの工程を発注者がすべて把握していることが前提となると滝氏は考える。

 それは同氏が自己体験から得た教訓でもある。

 「単にウールと言っても、毛を刈る部分によって採取できる量はさまざまで、商品価格にも大きく反映する。自分が想定する素材感や価格を実現させたいのであれば、すべて理屈が分かっていなければいけない。これはタキヒヨーにとって絶対的矜持なのです。物事を丁寧に考えろとはそういうことです」

「日本の良心」と評されたタキヒヨー

 この姿勢は取引先からも高く評価されている。〝メイド・イン・ジャパン〟にこだわりながら、企画・生産までを自社で責任を持って取り組むことは取引先に安心感を与え、強い信頼関係を構築する。

 〝鬼のMD統括部長〟と言われ、商品開発には常に厳しい目を持って接したことでも有名な三越伊勢丹HDの武藤信一前会長をもってして「タキヒヨーは日本の良心である」と言わしめたことは何よりの証左である。

 時代の変遷で、主力はテキスタイル事業から量販店向けのODMに移行しているが、この領域を拡大できた背景にあるのも同社の企業姿勢だ。

 「『何を作りましょう?』という受け身ではODMは成り立ちません。量販店は商品の在庫回転率が命ですから、絶対に売れると自信を持った商品ニーズをいち早く掴み、製品化にこぎ着けるかにかかっています。いわゆる〝筋もの〟の提案が競合に比べ勝っていることが取引拡大の最大の要因です」

 

長寿の基盤にある「自由闊達な企業風土」

 

 また、滝氏は「社長は、偉いものではなく、あくまでも職務」という信条を持っている。皆と同じ普通の人間だからこそ、いつ誰が、何を言ってきてもいいと社長室の扉は常に開いている。

 社内の風通しを良くしたいと願う滝氏だったが、その効用は社長就任13日目に早くも実感することになる。東日本大震災が勃発、名古屋本社に出社した翌月曜日、新入社員2人が社長室を訪れたという。その両名は会社の前のホテルに自腹で宿泊し、被災地に何ができるか徹夜で考え、社長に提案しにきたのだ。

 「突然、新入社員2人が被災地に対し何ができ、何をすべきかをiPadに詰め込んで社長室にプレゼンしにきたのです。iPadを持つ手は震えていましたね。私は内容より勇気を持って社長室に直談判にきた気持ちがうれしかった。プレゼンする顔をじっと見つめていると涙が出そうになりました。まだまだタキヒヨーは捨てたものではないと自信を持ちました」

 長寿企業の条件は数多あるが、基本は「お客さま第1」と「旺盛なチャレンジ精神」に尽きる。

これを可能にするのは究極的には自由闊達な企業風土であり、これを実践してきたからこそタキヒヨーは創業263年を迎えることができたのである。

(文=本誌・大和賢治 写真=西畑孝則)

 

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