テクノロジー

横たわる難題

 特定の産業が発展するきっかけはさまざまだ。新技術が生まれ発展することもあれば、また別の要因で発展することもある。その意味で、エネルギー産業や公益事業の将来的な発展は、「廃棄制約」問題で加速することになるかもしれない。

 廃棄制約とは、廃物の処理先が確保できないことで、産業活動が立ちゆかなくなったり、生産活動・消費活動が大きな制約を受けたりすることを指す。例えば、地球温暖化問題も廃棄制約問題の1つだ。これは、化石燃料を燃やす過程で排出される「CO2という廃物」を、安易に大気中に棄てられなくなったという問題であり、地球温暖化対策をめぐる国際交渉は、どの国がどれだけの量の廃物(CO2)を棄てられるかの権利に関する交渉と言える。

 廃棄制約の厳しさは、福島原発事故以降の除染活動を見れば一目瞭然であろう。周知のとおり、この活動では、取り除いた放射性廃棄物の行先が見つからず途方に暮れている。そもそも放射能汚染の除去は不可能に近く、福島での作業は、「除去」というよりも、放射性の汚染物を別のところに移す「移染」と呼ぶべきものだ。もちろん、「移染」も無意味ではない。だが、「移染先」が決まらなければ作業は遅々として進展せず、問題の先送りに終始するのは必定だろう。

廃棄から生産を考える

 廃棄制約の問題解決が難しいのは、生産には常に廃棄が絡むからだ。

 例えば、銅の製錬では、銅を多く含む鉱石の硫化鉱(CuS)から不要な硫黄(S)分を取り除き、純度の高い銅(Cu)を取り出す。S分は酸化によって鉱石から取り除かれるが、取り除かれたSは無になるわけではなく、酸素と合わさり「SOx」となり、大気中に排出される。SOxは森林を枯らし、大気を汚染する。その状態が日本でも長らく続いたが、1960年代末から始まった環境政策により、SOx対策が進み、大気や森林の状態は改善された。ただし、その対策の副産物であるダストや硫酸の行先については、まだ明確な答えが示されていない。

 今日、企業のCSR(社会的責任)が問われるようになり、生産高・収益といった指標に加えて、廃物をどう扱っているかの明確化が求められている。その意味でも、現代は廃棄制約の時代と言えるだろう。言い換えれば、廃棄を考慮しない生産はもはや持続性がないということだ。従来、企業は、生産の結果排出される廃物をいかに処理するかで頭を悩ませていた。しかし、これからは、適切な廃棄が行えることを前提に、生産を考えなければならない。「生産から廃棄へ」ではなく、「廃棄から生産へ」なのである。

低炭素社会の実現はイノベーションに通ず

 エネルギー問題の解決を図る上でも、廃棄制約問題に真正面から取り組む必要がある。例えば、過去における電源選択では、どれだけの電気を能率的に作り出せるかという発電能力だけで良否判定が行われがちだった。背後には、「発電過程で排出される廃物については、適切に処理される」という前提が、暗黙のうちにあったように思える。

 ところが現実にはそうではなく、原子力発電から出される放射性廃棄物にしても、火力発電のCO2にしても、適切な処理・処分はできていなかったのである。しかも、これらの処理は今後ますます難しくなるだろう。

 このように、廃棄を考慮しない生産や消費は今後成り立たなくなる。ただし、そうした制約を、「産業活動の阻害要因」とだけ決めつけるのは早計だ。実際、これまでも、廃棄制約を克服する過程で新技術が生まれ、産業が発展してきた。例えば、循環型社会や低炭素社会を目指す中で、次のような新しい技術体系が生まれている。

●クリーナー・プロダクション:生産そのものが環境に調和した技術

●ゼロ・エミッション:産業間連携による廃棄物を一切出さない生産体系

●インバース・マニュファクチャリング:廃棄物になった時点の状態から生産を考える逆生産体系

 これらの技術体系はCO2排出量が規制値を満たした段階で進歩が止まるものではない。CO2は地球的規模で蓄積される汚染物質であり、排出総量は永続的に、かつ、可能な限り抑制しなければならず、あらゆる領域で永続的な技術進歩が求められるからである。さらに、低炭素な社会づくりを担う技術は、さまざまな産業において進化・発展するものであり、開拓される市場・産業の裾野も広大だ。

 従来、廃棄物抑制は経済成長を阻害する要因と見なされていた。要するに、「経済成長の結果として、廃棄物が増大するのはやむを得ないことであり、廃棄物を抑制すると経済には悪影響がある」というわけだ。しかし実際には、低炭素社会や循環型社会を目指すことは新技術・イノベーションの創出につながり、産業発展の契機となり得るのだ。

 
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