政治・経済

アベノミクスに対して否定的な立場を明確にする一人が、テレビのコメンテーターでもお馴染みのエコノミスト、森永卓郎氏だ。森永氏はアベノミクスの目的を、経済格差の拡大と言ってはばからない。

森永卓郎氏が語る 加速する格差のグローバル化

森永 卓郎

森永 卓郎(経済アナリスト、獨協大学 経済学部 教授)

 今から10年以上前、筆者は、森永卓郎氏の著書『年収300万円時代を生き抜く経済学』(知恵の森文庫)を読み衝撃を受けたが、今の現実は、同書の「予言」通りの方向に進みつつある。そして、アベノミクスによって、この状況がさらに悪化するというのが、森永氏の見立てだ。

 「あの本を出したときは、『頭がおかしい』って周りから言われました。ところが今や、年収300万円でも御の字の時代です。要するに、本質的な問題は10年前から何1つ変わっておらず、安倍内閣は、小泉内閣の構造改革政策と同じことをやろうとしているわけです。この政策の進展で、弱者にとってより悲惨な未来が訪れると思いますね」

 確かに、「3本の矢」からは経済的弱者の姿が浮かび上がって来ない。アベノミクスが続くことで、日本の経済格差が広がる可能性は否定できない。

 「可能性というか、アベノミクスは格差を押し広げるのが本来目的だと思いますね。表向きは誰もそれを口にしませんが、テレビでご一緒した人たちは皆、裏では『そんな社会を作りたい』と言っていますから」

 ちなみに、ここで言う「皆」とは、政治家や政権に参加するエコノミストたちのことを指しているのだろう。そして、彼らが欲する「社会」とは、米国的な格差社会を意味するものでもある。

 「米国や中国は、実質的に日本よりはるかに厳しい格差社会。それを、『グローバルスタンダード』と称して、日本に持ち込もうとしているのがアベノミクスの実態です。要するに、アベノミクスの推進派は、日本の社会を、エリート層が金の力で人をこき使う世界にしたいだけなんです」

 「戦後における日本社会の特殊性というのは、社会的な強者であるエリートの家にも、お手伝いさんや子守りがいなかったこと。それって世界的に希有な例なんです。だからこそ、日本は、『人類史上、最も成功した社会主義国家』と評されてきたわけで、そう言われるほど平等な社会だった。そんな社会を瓦解させ、一部のエリート層が運転手やら、メイドさんやら、ボディガードやらを雇えるような社会にする。それがアベノミクスの真の狙いと見るべきです」

乱世を望む弱者の群れを危惧する森永卓郎氏

 ほんの20年前に比べてもレベル低下が著しい今日の政治家や財界人が、自らがエリートであるという前提で「格差を欲する」というのも嫌な話だ。ただし、政治家ばかりも責められない。有権者のほうにも、民主国家の致命傷となりかねないレベルダウンの傾向が見られるようなのだ。

 森永氏はため息混じりにこう語る。

 「本来なら、経済的な弱者が平等政策を唱える政治家を支えるのが当たり前です。ところが日本の有権者は、それと真逆の行動を取ってきた。小泉内閣のときも、安倍内閣の今も、低所得層が圧倒的に『弱者切り捨て』の構造改革を支持するんですよ。おそらくこれは、視野の狭さによるものでしょう。自分の近くにいる課長とか部長を見ている分には、自分と大した格差は感じませんから。ただし、世の中には、年収何億円・何十億円の勝ち組がいる。自分の半径5㍍以内のモノしか見ていないと、その姿は見えてこないんです」

 「ですから、多くの若者や経済的弱者が腹を立てる相手は、正社員で高給を取っているような人たちでしかなく、日本の年功序列的な体系や正社員優遇の体系を打ち壊しさえすれば、自分たちが上に上がれると錯覚してしまう。実に、嘆かわしい状況です」

 これは、経済的な「乱世待望論」と言えるだろう。しかも、恐ろしいことに、同様の錯覚は日本外交をめぐる世論にも影を落としているようだ。

 「今の構造改革賛成派は安全保障上の右派であるケースが少なくありません。ですから、戦争を是が非でも回避しようという考えはさらさらなく、逆に戦争になって社会がばらばらになれば自分たちに浮き上がるチャンスがあるとすら考えてしまう」

 「もちろん、現実に戦争が起きれば、低所得層から戦場に送られて、命を落とすことになるのは、米国の例を見れば明らかなんです。そんな簡単なことに、なぜ気付かないのか不思議でなりません」

 格差の拡大が続けば、国内需要全体は縮小し、国内経済の体力は落ちる。一方、戦争待望論がにわかに沸き起これば、対外関係は確実に悪化する。これは、日本の将来にとって決して良いことではない。「勝ち組」の人士たちは、その辺りのことを、どう考えているのだろうか。

 「お金持ちの人たちは、何かあっても、いつでも日本から逃げられる――そう考えているだけだと思いますね。ただし、現実には海外で活躍できる人は少数派なので、これも錯覚なんですが」

アベノミクス効果という集団幻想

 

【政治・経済】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩)草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール 測量とアートが結び付く「測量美術」とは何…

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る