テクノロジー

自由化で電力メジャーが誕生したドイツ

ドイツにおける時間帯別電力市場価格 風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーの導入促進に熱心なドイツ。再エネで発電された電力は高値で売電できる固定価格買取制度により急速に拡大したが、電力料金の高騰が社会問題となっていることは、日本でも多く報道されている。

 他方、これまでドイツの電力会社はEU全体での自由化の進展に伴い、電力メジャーとも呼べるほどの巨大企業に成長したが、その根幹とも言える事業モデルが転換を迫られていることはあまり知られていない。

 ドイツでは、風力発電、バイオマス発電、太陽光発電に、順次高い固定価格が設定され、導入が加速され、現在、再生可能エネルギーが電力消費の25%を供給するに至っている。電力卸売市場での取引は電力自由化により活発だが、再エネの供給力が急速に拡大した結果、需給が緩み、市場価格の低下が著しい。特に、近年の太陽光発電の拡大は、昼間のオフィスの空調など需要量が高まる時間帯に最も供給量が増えるため、昼間に生じていた需要ピーク時の価格の上昇幅が年々低下し、ついにはその傾向が見られなくなった(図)。このことは大型火力発電所や原子力発電所をコアとした既存の電力会社の事業モデルの転換を意味している。

 ドイツでは90年代後半にEU電力指令と呼ばれる加盟国の電力自由化が義務付けられ、電力システム改革が進められた。自由化直後は激しい競争が起き、8つの地域独占電力会社がE・OnやRWEなど4つに収斂し、そのうち2つがドイツ外の資本となる激しい業界再編が起きた。その結果、送電に一定の中立性が課される中、発電と小売りのバリューチェーンを垂直統合する一方、電力のみならず都市ガスも含め供給し、各地域で高いシェアを保つ地域独占的な総合エネルギー事業者が誕生した。

 環境負荷の大きい石炭火力や、原発などの参入障壁は高く、24時間安価に発電するベース電源と呼ばれるタイプの発電所の寡占が許されたことは、業界再編後の新たな業界秩序の形成に寄与した。これらのベース電源は、卸売価格が引き上がる昼間帯でも発電コストは低く、この時間帯に利ざやを稼ぐ。これを小売りでの競争力の維持にも活用し、電力小売りでの新規参入の余地を狭め、国内市場を中心に2割以上の高い営業利益率を上げてきた。

 他方、EU加盟国の拡大に伴い、国営電力会社の民営化や自由化が進められたが、国内市場の利益が買収資金となり、大きく事業を拡大した。また、収益性・成長性とも申し分のない企業は、当然株価も高値を付け、それが新たな買収を推し進める原動力になった。

 

太陽光発電拡大と事業モデルの崩壊

 しかし、大型のベース電源主体の電力メジャーの事業モデルは、昼夜の区別なく稼働する風力の拡大、昼間の電力卸売価格を低下させる太陽光の拡大に伴い、崩れつつある。また、福島原発事故を受けメルケル政権が打ち出した脱原発、再エネのさらなる拡大により、電力メジャーの収益性の回復は困難と見なされ、株式市場における時価総額は、08年から13年にかけ、E・OnもRWEも7割減少した。

 こうした危機的な状況を受け、電力会社はあらためて顧客にフォーカスし、出力変動が激しい太陽光発電を最適に活用するエネルギーマネジメントシステムを構築し、顧客のエネルギー使用の状況に応じた最適なシステムの提供を目指す方向に舵を切りつつある。特に、エネルギー使用実績はライフスタイルを示す唯一のビッグデータとも言われ、その解析を生かしたビジネスを模索し始めている。ただし、電力業界とは無縁なさまざまな事業者が入り乱れているため、事業モデルの転換は、決して平たんな道のりではない。

 ただ、電力供給を通じて顧客接点を持つのは電力会社である。また、電力取引市場でのトレーディングノウハウは出力変動の激しい太陽光などの発電システムに対し重要性が増すが、これを持つのも電力会社である。将来的には市場でのプレゼンスを保持していくのかもしれない。

 日本では、3次にわたる電気事業法改正により電力システム改革が進められ、先日閣議決定されたエネルギー基本計画では、再エネ発電は2割以上を目指すとされた。現在ドイツで起きていることは、将来の日本の電力業界の構造変化を指し示しているとも考えられる。原発再稼働が見通せない中、しばらく火力発電の新増設などに動いているが、こうした巨額の投資の回収が困難になる可能性もある。小売りだけでは事業としては成立しがたいとされてきた電力業界の常識も覆されるかもしれない。

 次回はシステム改革と再エネ拡大による今後の日本の電力業界構造の展望を論じたい。

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

電力業界のイノベーション

[連載] エネルギーフォーカス

10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

[連載] エネルギーフォーカス

日本は再生エネルギーで世界トップとなる決断を

テクノロジー潮流

一覧へ

アジア大会とノーベル賞

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

水素社会へのステップ

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る