国際

鍵を握るロシアの行動

米欧日の対ロシア制裁 ウクライナ東部では親ロシア勢力による行政庁舎の占拠が続き、衝突により死者が出ている。こうした中、4月17日に米国、ロシア、EU(欧州連合)、ウクライナがジュネーブで初めて四者協議を行った。この協議では、武装勢力が占拠する建物の明け渡し、ウクライナの憲法改正プロセスの開始等で合意した。

 この合意により米国は当面、ロシアに対する追加制裁を発動しないことを決定した。米国はロシアの動きに応じて制裁のレベルを3段階に分け、これまで第1段階の制裁(協力関係の停止)に加えて、クリミアでの住民投票後には第2段階(米国国内資産凍結と渡航制限)まで発動している(表参照)。

 米国が対ロシア制裁を強化するかどうかは、ロシアがどのような行動をとるかが鍵となろう。ロシアとしては、(1)ウクライナにおける欧米の影響を排除すること、②欧米の厳しい制裁を回避しつつ、停滞する自国経済の失速を阻止すること、という目標の両立を狙っている。今後の展望として次のシナリオが考えられる。

■シナリオ(1)

 まずは、ロシアがウクライナ東部・南部への侵攻を控える、という展開。前述の四者協議では、ウクライナ憲法改正手続きへのロシア系住民の参加で合意したほか、暫定政府も自治権拡大(州知事の任命制見直し等)を進めるとしている。そのためロシアとしては、東部・南部に侵攻することなしに、「連邦制」に向けウクライナから一定の譲歩を引き出すことが可能だろう。ロシアは各州が国家に準ずる一定の権限を行使できる「連邦制」をウクライナに導入させることで、中央政府がロシア系住民の利益に反する決定を行った時はいつでも同東部・南部がロシアの介入を合法的に受け入れることを可能にする狙いがある。

 また、ロシアは同国への圧力緩和(国境付近のロシア軍撤退等)を条件に、EU・NATOに加盟しないことと、正統な親欧米政権成立を阻止するために、5月25日に予定される大統領選挙の延期をウクライナに求めてこよう。この場合、米国は自治権拡大を後押しすることで緊張緩和を目指すだろう。

シナリオ(2)

 他方、親ロシア派勢力が武装解除や行政府庁舎の明け渡しに応じない可能性が想定される。そうなれば、ウクライナ東部・南部におけるウクライナ極右勢力と親ロシア勢力の間での偶発的衝突をきっかけに、ロシアがロシア系住民の保護を名目にウクライナ領に侵攻するリスクが高まるだろう(ロシアは東部・南部侵攻を通じて欧米の影響を排除した緩衝地帯の確保を狙う)。

 

米議会主導で厳しい制裁措置も

 シナリオ(1)のように、ロシアが東部・南部への侵攻を控えるならば、米国は第3段階の制裁を発動しないだろう。厳しい制裁が発動されないため、ロシア経済および世界経済への影響も限定的となろう。また武装勢力が武装解除され、自治権拡大に向けたロシア系住民との対話が進めば、緊張緩和に向かう。

 シナリオ(2)のように、ロシアが東部・南部に侵攻した場合、米国は第3段階の制裁を発動するだろう。米議会は、オバマ大統領がロシアに具体的な措置を取っていないとの批判を強めており、貿易制限や金融制裁を含む「対ロシア制裁強化法案」を提出する可能性が高まる。目下、制裁強化に向けてEUと日本の足並みが乱れているが、対イラン型の厳しい制裁が米議会主導で進められよう。

 この場合、ロシア経済のみならず、EU経済(原油輸入および天然ガス輸入の3割強をロシアに依存。2012年のEUの対ロシア輸出はGDP比0・9%)への下押し圧力も無視できない。

 また、米国の中東外交にも悪影響が及び、ロシアが報復措置として中東における対米協力を停止することになるだろう。特に、イランに対する兵器輸出や核協力の強化、シリア和平会議のボイコットとアサド政権に対する支援強化、アフガニスタンへの補給路(カザフスタン駐留ロシア軍基地経由)の遮断といった措置に出ることが想定される。

 対ロシア制裁の強化に伴うロシア経済と世界経済への悪影響を考慮すれば、ロシアはウクライナに侵攻しないほうが得策であるため、現時点ではシナリオ(1)の方向に進む可能性が高いと見る。ただし、偶発的な衝突が発生するリスクは否定できないため、今後の動向に注意したい。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

2015年の中国リスクと新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第35回)

「3不社会」韓国の「3放世代」

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

 昨今、事業拡大や後継者対策などを目的とした企業同士のM&Aが増加している。同様にウェブサイトのM&Aが活発化している事実をご存知だろうか。サイトの売買で売り手にはまとまったキャッシュが、買い手にはサイトからの安定収益が入るなど、双方に大きなメリットがもたらされている。大手ITグループから個人事業主まで幅広い…

201712EVEREDIA_CATCH

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年1月号
[特集]
敗者復活戦

  • ・負けから何を学び、糧にしていくか
  • ・存亡の危機を乗り越えた「熱海」の逆転ストーリー
  • ・あの名門ブランドが、帰って来た(アイワ、ビクター)
  • ・「なるほど家電」を牽引する大手家電メーカーの早期退職組(アイリスオーヤマ)
  • ・関ケ原で敗れた立花宗茂はなぜ、返り咲くことができたのか
  • ・市江正彦(スカイマーク社長)
  • ・加藤智治(ゼビオ社長)

[Special Interview]

 三毛兼承(三菱東京UFJ銀行頭取)

 「旧来の商業銀行は構造不況業種 大変革で信頼と強さを持ち続ける」

[NEWS REPORT]

◆カードローン規制で稼ぎ頭を失う地方銀行の明日

◆12年ぶりのアイボ復活 名実ともにソニー再生は成るか

◆終身権力者も視野に入った習近平が恐れるクーデター

[特集]クルマが変わる、社会を変える

・これから始まる全自動運転 OSを制するのは誰だ!?

・車載電池の性能が左右するEV時代の覇権戦争

・冷える鉄鋼、潤う化学 クルマが変える産業構造

・トヨタ・日産・ホンダ・マツダ 主要4社「わが社の戦略」

ページ上部へ戻る