政治・経済

「安倍首相、法人税率引き下げ指示 自民党税調会長に」--安倍晋三首相は16日、自民党の野田毅税制調査会長らと首相官邸で会談した。首相は「私は国際的に法人税改革を約束し、多くの人(投資家)の期待を裏切ることがないようにしないといけない」と述べ、法人税の実効税率の引き下げを検討するよう指示した。安倍政権は6月にまとめる政府の経済財政運営の指針「骨太の方針」に、法人税率(東京都で35・64%)の引き下げを盛り込む方針で、将来的に近隣諸国と同じ20%台を目指す。菅義偉官房長官は「来年から引き下げるという方向で議論をしてもらいたい」と述べ、「15年度から」を「骨太」に明記する構えも見せている。(後略)(朝日新聞2014年4月16日付)

 

問題は法人税減税の使い道

日本の民間企業設備と対外直接投資 安倍政権は法人税率の引き下げ、すなわち「無条件の法人税減税」を成長戦略の柱に据えるべく検討を進めている。不思議な話なのだが、法人税減税に関する報道を見ると、法人税を引き下げた際の「財源の問題」ばかりがクローズアップされ、「法人税減税分の使い道」については、全く触れられていない。

 無条件の法人税減税を本当に実施するとなると、財源の問題が出てくるのは確かだ。とはいえ、そもそも「法人税減税+消費税増税」こそが、新古典派「経済学」的に正しい施策なのである。法人税を減税し、企業の投資を喚起して成長する。減税分の財源は、当然の話として消費増税だ(あるいは「配偶者控除廃止」などでも構わない)。ちなみに、1997年に橋本政権が消費増税に踏み切った際も、併せて法人税の引き下げが行われた。

 筆者は「法人税減税+消費税増税」という政策が、現在の日本に適しているとは全く思っていない。単に「経済学的」には、法人税減税の財源は消費税の増税になると言っているだけだ。

 むしろ問題視したいのは、先述のとおり法人税減税の「使い道」のほうである。何しろ、法人税を無条件で減税したところで、企業が増加した純利益を「国内」の投資や雇用のために使ってくれるとは限らない。

 筆者も経営者であるため、法人税減税は「一企業」としてはうれしい。何しろ、何をするわけではなくても、勝手に純利益が増えるのだ。

 とはいえ、企業の利益と「国民経済の利益」は、必ずしも同じにはならない。例えば、消費増税を財源に、法人税を減税するとは、「国民全般の損に基づき、一部の黒字企業が得をする」という話だ。国民が損をしている以上、企業は「政府の政策」により増えた純利益を、国内の設備投資や労働者の雇用に使わなければならないはずだ。そうして初めて、法人税減税という、いわゆるトリクルダウン仮説(※)に基づく政策は正当化される。

 法人税減税に条件がなく、さらに資本移動が自由化されている状況では、企業は純利益の増加分を「国内の投資・雇用」に使うとは限らない。例えば、内部留保として貯蓄しても、株主への配当金の原資としても構わない。そして、対外直接投資という、外国での設備投資にお金を回すことも可能なのである。

 

国内への投資と雇用を増やす政策を

 図のとおり、日本の民間企業は98年のデフレ深刻化以降、国内の設備投資(民間企業設備)を全く増やしていない。リーマンショック以降は、対2008年比で10兆円も縮小した状況が続いている。信じられないことに、アベノミクスによる株価上昇に沸いた13年すら、民間企業設備は前年を下回っている。

 一方で、民間企業の外国における工場建設など、「対外直接投資」は異様な勢いで増え続けた。13年の対外直接投資は14兆円近くに達し過去最高となったのだ。

 こんなありさまで、単純に法人税を減税し、日本国内の投資や雇用が増えると考えるほうが無茶である。というよりも、そもそも政府が、「法人税を減税し、国内の投資を増やし、経済成長を牽引する」と、考えているならば、無条件ではなく「設備投資」を減税の条件にすれば済む話だ。

 一応、書いておくが、政府は景気対策として設備投資減税や雇用減税「も」実施する予定だ。同時に、法人税率の引き下げをも実施を検討しているのだ。

 安倍総理は法人税を引き下げ、「いかにして経済成長を達成するのか」を明確化するべきだろう。国民の財政負担が増える以上、「私は国際的に法人税改革を約束し、多くの人(投資家)の期待を裏切ることがないようにしないといけない」といった抽象論で推進することは許されないはずである。

 

※トリクルダウン仮説:トリクルダウンとは「したたり落ちる」の意味で、大企業や富裕層の所得を政策的に増加させると、富が投資として低所得層に向かって徐々に流れ落ちていき、国民経済全体の成長に貢献するという仮説。主に新古典派経済学に基づく新自由主義政策において主張される。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る