国際

高いインフレ率に悩むインド

 ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカの5通貨は、「フラジャイル・ファイブ」(5つの脆弱通貨)と呼ばれている。高いインフレ率、経常赤字、財政赤字といった構造問題を抱える新興国だ。

 しかし、皮肉なことに、今年1〜3月の対ドル騰落率は、インドネシアルピア7・1%、ブラジルレアル4・0%、インドルピー3・2%、トルコリラ0・4%と好調だ(南アフリカランドのみ0・4%下落)。株価上昇率も、インドネシア13・2%、南アフリカ5・3%、インド4・4%、トルコ4・4%、ブラジル1・6%下落と、日本の7・4%下落と比べると好調だ。

 最も好調なのがインドだ。経済成長率は、2010年のピーク10・5%から13年には4・9%に低下した。しかし、今年は5・6%、来年は6・2%と着実に回復する見通しだ(シティグループ証券予想)。インドネシアも、今年5・3%と高い成長が予想される。ブラジル、トルコ、南アフリカの今年の成長率が2%前後にとどまる見通しなので、「フラジャイル・ファイブ」という言葉自体が成り立たなくなってきた。

 ただし、今もなお、インド経済は問題が多い。今年の予想インフレ率は8・3%と主要新興国では最高水準だ。インドのインフレ率(前年同月比)は、直近のピークである10年1月の16・1%まで上昇した。ようやく下がってきたが、それでも今年2月には6・7%と高い。今年の予想財政赤字対GDP比6・7%も最高水準にある。インドの経常赤字額は世界で3位であり(12年)、対GDPでは4・8%と高い。

 インフレ率が高い理由は、第1に、インドが石油輸入国であることだ。原油・石油製品は輸入全体の35%を占める(12年)。石油価格は世界的に緩やかな値上がりが続いているが、インドの場合、それに自国通貨安が加わって、価格を押し上げる。

 第2は、政治的要因だ。インドは世界最大の民主主義国家なのだが、成熟していない民主主義国では、どうしてもポピュリスト的な政策が増える。インドには、社会政策として、多くの補助金が支給されるが、その中で、石油と食料の補助金が大きい。その結果、過度に需要が高まり、値段が上がってしまう。

 第3に、産業育成の遅れが、生産性上昇によるインフレ率抑制を妨げている。1991年の通貨危機以前のインドは社会主義経済を採用していた。現在でも、憲法の序文では、「インドは社会民主主義共和国である」と宣言しているほどだ。

 

好調な新興国と低調な新興国の2極化へ

 しかし、事態は大きく変化しそうだ。インドのインフレ率は、13年の9・6%から17年には6・5%まで3・1ポイント低下する見通しだ。同期間のインフレ率の変化は、インドネシア1・1ポイント低下、トルコ1・0ポイント低下、ブラジル0・7ポイント低下、南アフリカ0・2ポイント上昇なので、インドの改善幅が最も大きい。

 最大の理由は、金融政策の改革だ。13年にインド中央銀行総裁に就任したラグラム・ラジャンは、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得、シカゴ大学経営大学院のファイナンス教授となった後、IMFのチーフエコノミストを経験した世界的な経済学者だ。ラジャンは、インドの政策金利を合計3回にわたって、0・75ポイント引き上げた。金利引き上げが、インドルピーを立ち直らせ、13年の最安値から14年の最高値まで対ドル相場は14・9%上昇。そして、通貨高がインフレ抑制効果をもたらした。

 一般に、経済成長とインフレは、政策的に二者択一的になりがちだ。経済成長率を上げようとすると、インフレ率が上がることが多い。逆に、インフレ率を抑えると、経済成長率も低下してしまう。新興国では、中央銀行の独立性が必ずしも十分でない。このために、政治的圧力から、インフレ率抑制より成長を優先することが多い。

 しかし、インフレ率が高いと経済のみならず、社会が安定しない。その結果、経済成長率は不安定で、かつ低下する。短期的には、インフレ率を抑えると、経済成長率も低下してしまうが、長期的には、インフレ率を抑えると、経済成長率が安定し、かつ上昇することが、学術的に証明されている。ラジャンは、国際的に常識的な金融政策を断固として実施し始めたのだ。

 そして、この動きを政治の改革が後押ししそうだ。インドでは総選挙が5月16日に実施される。04年に、富の平等分配を掲げるコングレス党が勝利し、その後、マンモハン・シン政権が続いてきた。しかし、今回の総選挙では、ビジネスを重視するインド人民党が主導する勢力が勝利する可能性が高い。日本で言うと、民主党から自民党に政権交代するのに近い。

 中国、ブラジル、ロシアの経済成長がピークアウトした後、インド、インドネシアを中心とする東南アジア、そしてメキシコが新興国の経済成長をリードするであろう。「新興国=高成長」という時代から、好調な新興国と低調な新興国の2極化が進む時代に入ったのだ。この認識がグローバル投資と企業経営に欠かせない。

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