マネジメント

今回は、偉人の壮絶な生き様にフォーカスした。「昭和の黄門様」こと福田赳夫も若き日に事件に巻き込まれている。その経験はどう生きたのか。この記事の3年後、ようやく総理に就任している。(1973年10月号)/構成:本誌・古賀寛明

 

10年間の浪人生活がつくった福田赳夫の人間の味

-- 人生の転機は、大蔵省の主計局長時代に昭電事件(注)に連座したことでしょうか。

福田 全くその通りです。ですから、私は政治家として、必要以上に神経質になっているんですよ。あの事件なんかは、本当に〝青天の霹靂〟だったんですからね。1審で5年、2審で5年、計10年の歳月がかかったんですが、結局「これを要するに本件は、検事が事件をあらかじめ構想し、用うるに牽強付会の弁を以て、これをたとえは、鷺を鴉と言いくるめんの類に終止しており、起訴に足る何らの資料もなし」ということでやっと終わったんです。しかし、それにしても疑いをかけられたこと自体が問題といえば問題なんですから、今、言ったように本当に神経を使っているんですよ。

-- 振り返って、苦しい10年から得たものはなんですか。

福田 そうねえ、やはり世の中というのは、非常に冷酷な一面と、また信義に厚い面という両面を持っている。頼れる人と頼れない人とに選別できる、ということを知ったということですかね。それをからだで知ったということですよ。たしかに、働き盛りの10年を費やしたのですから、惜しいといえば惜しかったんですが、それにしても役所にいたんでは、とても経験できないことを知った。大衆の中の人生修業ができた。

 それにしても、浪人のポーズというのは難しいね。卑屈になっちゃいかんし、もちろん威張ってもいかん。まあ、僕の場合は失意泰然といおうか、できるだけ落ち着くように心掛けていたんですがね。

-- 浪人時代にさまざまな相談事が寄せられたそうですね。

福田 あれもまた、いい勉強になりましたよ。大蔵省には限りませんが役所というのは真に強大な権力を持っている。いわば権力の集合体のような存在ですが、そこにいると、どうしても考え方が独断に走ることになる。ところが、浪人のお陰で世事万般の悩みに、直接、間接に接することができた。一緒に考え、ひとつの結論を求めて共に悩んでいた。その結果、その後政界入りするについての、誠に格好の教訓を得ることができたんです。つまり相手の立場でものを考える修業を積んだんですね、この期間に。その必要を痛感し、そして、これを習性化させるように心掛けてきたんですよ、今日まで。

浪人生活を送った福田赳夫の政治信条

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福田赳夫(ふくだ・たけお)
(1905〜95)群馬県生まれ。大蔵省に入省後、主計局長時に昭電疑獄に巻き込まれ退官。その後代議士に。10年後に無罪を勝ち取る。76年に内閣総理大臣に就任。晩年も政界のご意見番として活躍した。

福田 うーん、まあ、政治も心の問題であると言われていますが、その限りでは私も全く同意見なんですよ。しかし、一部の学者らはこれを即、教育の問題として論じようとし、現代社会の荒廃、ヒズミを教育の欠陥として指摘しようとしている。これは間違いですよ。教育の問題以前に、まず国民思潮といおうか、社会思潮、社会風潮を改めなければならないと思います。現代社会のゆがみはどこから来ているかと言えば、戦後、アメリカ100年の建国の思想である民主主義をメチャクチャに大急ぎで輸入した結果、いつの間にかはき違えてしまったからであって、日本は、とりわけ政治は、まずここから手を付けるべきだと痛感しているんですよ。

-- つまり、戦後の困窮を起点とした「自分さえ生き残れば……」という自己本位の考えに囚われているということですか。

福田 だから、僕は政治信条の1つとして「連帯社会」をつくることを主張しているんですよ。孤独な秀才は嫌ですね。いや、むしろ軽蔑しますよ。

 今の日本に必要なのは、決して能力のある人ではないんですよ。能力は人並み優れている必要はない。それよりも人のために奉仕を喜べる人。人と組み、全体の中の1人として活動できる人。本当の友人、仲間を持てる人が必要なんですよ。

 長を与え、短を抑え、そして他人の長をとる。これが人生であり、これができるのが人間なんですよ。だから企業にあっても、既に実証されているように、自分の利益だけを追求していたのでは、必ず行き詰まってしまう。社会あっての企業であることを心底、しかも常に念頭におかなければならないんですよ。

 

(注)昭和電工事件:1948年に政治問題となった昭和電工への融資に絡む贈収賄事件。昭電疑獄ともいわれる。

 

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