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黒人への発砲事件が人種差別問題に

ニューヨークの集会でマーティンに祈りを捧げる参加者(撮影/津山恵子)

ニューヨークの集会でマーティンに祈りを捧げる参加者(撮影/津山恵子)

 「人種問題とは何なのか」「法の裁きは本当に正しいのか」という民主主義の根本的な問いについて、米国を揺るがす事件が起きている。

 昨年2月26日、黒人高校生トレイボン・マーティン(当時17歳)が、ヒスパニック系白人ジョージ・ジマーマン(29歳)に射殺された事件で、今年7月13日、ジマーマン被告に無罪評決が降りたからだ。マーティンが武器を持たなかった上、容疑が「殺人(計画性の薄い第2級殺人罪)」だったのに対し、いきなり「無罪」となったため、全米で反対デモが起きる騒動へと発展した。

 事件を振り返ると、マーティンは昨年2月、父親のフィアンセが住むフロリダ州サンフォードの住宅街に泊まりに来ていた。その夜、全米プロバスケットボール協会(NBA)のオールスターゲームがあるため、テレビ観戦に備えて、スナックを買いに近くのコンビニエンスストアに向かった。

 その帰り道、地域の自警団リーダーとなっているジマーマンに「不審人物」として目に止まる。ジマーマンは、地元警察に「911」するが、とりあってくれないため、車で追跡し、降りてからマーティンと取っ組み合いになった結果、銃を発砲、マーティンの胸に命中した。しかし、駆け付けた地元警察は、警察署での取り調べの末、ジマーマンを釈放した。

 実は、この事件は当初、地元メディアにしか報道されなかった。しかし、同年3月8日になって、マーティンの父親が記者会見を開き、ジマーマンが買い物帰りの息子を追跡したこと、そして、警察で釈放されたのは、黒人に対する人種差別であると訴えた。

 そこから全米メディアに取り上げられ、フロリダ州外のニューヨークやロサンゼルスなどで、差別反対とジマーマン逮捕を訴えるデモが広がった。フロリダ州検察当局は事件から45日が経過した4月11日、ジマーマン容疑者を逮捕する。

 今年6月末に始まったフロリダ州の裁判所での審議は、すべてテレビで生中継され、検察、弁護側の最終弁論はコマーシャルなしの放送だった。それだけ、関心が高いことを示している。

 評決は、普通予想されるようなジマーマンの行為が、「殺人」であるかどうかということはほとんど争われなかった。ところが、事件と裁判があったフロリダ州にある「正当防衛法(スタンド・ユア・グラウンド・ロー)」によって、ジマーマンの殺傷行為が正当防衛だったかどうか、という点が争点となった。

 弁護側の戦略もあり、それが認められるという形で、フロリダ州外の人には不可解な「無罪」評決という結果に。これが、全米的な議論へと発展した。

 評決の後、オバマ大統領が評決に反対する人々の過激なデモを予想したのか、「冷静な対応」を訴えた。全体的には静かなデモだったが、暴力的なデモで有名なカリフォルニア州オークランドでは、店舗やパトカーを破壊するお決まりの暴動が展開された。

銃規制問題の本質が置き去りにされる米国

 これを執筆している7月21日、つまり無罪評決から1週間あまりたった現在も、全国ニュースでは、評決の是非についての討論が続く。20日には、全米100都市で、ジマーマンに対し、黒人の人権が侵害されたとする連邦レベルでの民事裁判を求めるデモが開かれた。ニューヨーク中心部のデモには、マーティンの母親シブリナ・フルトンが参加。

 「キャンディを買った後の息子が犯罪人扱いされたのは信じられない。息子はギャングではない」と訴えた。

 しかし、残念なことにこのデモに参加したのはほとんどが黒人で、白人の知識層らしき人々がちらほら。演説に立ったのも、地元政治家、運動家をはじめすべて黒人。演説内容も、黒人に対する不当な差別を浮き彫りにし、ジマーマンの行為は、人権侵害という内容に終始した。つまり、「人種差別」という問題を普遍化できずに、黒人問題として強調してしまった面があった。

 この事件を、冷静に受け止めるのであれば、これはやはり「銃規制問題」としてとらえるべきだった。フロリダ州にある「正当防衛法」に問題があり、法の裁きは「不当」だとする黒人運動家らの主張も分かる。しかし、そもそも、銃を所持する人間が、丸腰の人間を撃っていいのかどうかという問題を提起するのが、賢いアプローチだった。

 しかし、事件をセンセーショナル化したメディアをはじめ、オバマ大統領が政策課題に挙げている銃規制問題には結び付けなかった。大統領は特別会見で、事件を銃の問題に結び付けた発言をしているものの、世間は全く見過ごしている状態だ。

 こうした事件を、本質化できず、人種問題としてリベラル派が評決に反対、保守派は評決を擁護するという政治色にまみれた議論に持ち込まれるところが、米国の病巣でもある。

 

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