政治・経済

人類史の大転換をもたらした産業革命

 アベノミクスの効果が、次第に実体を伴いつつあるようだ。

 日銀短観(2014年3月)によれば、業況判断指数は、大企業を中心にリーマンショック以前の水準に戻りつつある。また、その効果は中小企業にも及んでいる。

 一方で、世界的なデフレ懸念は払拭されておらず、国内的にも高齢化や消費増税に伴う負の影響など課題は解決されていない。要するに、成長の源泉を見つけ出さなければならないのだ。

 そのためにはまず、われわれが生きる「今」を、短観ではなく長期的視点でとらえることが有益である。

 約1万年前に農業を手にして以来、人類社会は超長期的に農業生産を中核とする均衡状態にあった。それを一変させたのは約200年前の産業革命である。

 それまで地域間の所得格差はわずかなものであったが、産業革命を手にした国は生産性を飛躍的に増大して先進国になった。そして、それ以外のほとんどすべての国は植民地、あるいは植民地同様の状態になったのである。

 産業革命こそが、先進国と途上国の格差の起源である。しかし近年、新興国をはじめ途上国が産業革命を展開しつつあり、今後そのスピードを増して、有限の地球に拡散していくものと予測される。

 産業革命の普及によって、世界中で人工物が飽和に向かいつつある。

 例えば、中国のセメントの1人当たり累積投入量は、2013年に米国に追い付いた。人口が4・5倍であるから、中国には米国の4・5倍のインフラが既に存在するということだ。

 また、先進国では、自動車はおよそ2人に1台の保有台数で頭打ちになるが、中国も既に10人に1台に達しており、歴史に学ぶとすれば、あと7〜8年で飽和する。飽和すると更新需要のみになる。これこそが、先進国の成長鈍化、景気停滞の本質である。そして、中国に代表される新興国も程なく飽和していく。

プラチナ社会に向けたイノベーションを国家戦略に

 もう1つ、現代の特徴は長寿化である。驚くことに、1900年の世界の平均寿命は31歳であった。それが、2011年には70歳に達した。現在でも貧困や飢餓は深刻な問題だが、多数の人々は食べることができ、長生きできるようになったのである。

 私たちは今、産業革命の普及、人工物の飽和、長寿化という未曾有の状況に遭遇している。これが人類史の転換期を生きるということの意味である。

 衣食住から長寿まで、量的に満ち足りた人類はこの先何を求めるのか、それが成長に関する本質的な問いだろう。その答えは生活や人生の質、つまり、クオリティー・オブ・ライフ(QOL)ではないだろうか。

 私は、QOLの高い社会を「プラチナ社会」と定義し、それをビジョンとして提案している。日本は課題先進国であるからプラチナ社会を目指さなければならない。

 課題先進国が課題解決に成功すれば、人類にモデルを提供することになる。だからこそ、プラチナ社会に向けたイノベーションを起こすことが、国家戦略たり得るのである。

 

視点 記事一覧はこちら

小宮山宏氏 関連記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る