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 岡伸一さんの『動的平衡』という本に、「人間の身体のあらゆる部位が分子レベルでは絶え間のない分解と合成が繰り返されている」という記述がある。つまり、人は分子レベルでは1年たつとすっかり入れ代わっているというのだ。しかし、個人の本質が別のものになるわけではない。このことは社会でも同じであり、毎日人が生まれ死んでゆくが、社会の本質が変わるわけではない。個人の本質が個々の細胞の単なる集合ではないように、社会も、単なる個人の集合ではなく、社会を特徴付ける何らかのものがあるということだ。

 その社会の特徴を創り出すものの1つに「文化」がある。文化は、その地域によってさまざまである。つまり、文化とは、その地域の人々が大切にしている生き方なのである。

 社会価値の中には、このように地域や時代によって異なってくる価値もある。このことが、社会的政策判断を難しいものにしている。リスクに対する判断もそうだ。社会にはさまざまなリスクが存在し、リスクにどのように対していくかがその社会の方向性を決めることになるが、許容するリスクをどのように選択するかということは、一意的には決まらない。何を重要だと考えるかは、その価値観によって異なるからだ。

 社会として、最適なリスクの取り方を選択していくには、判断の元になる価値の共有化を進めるしかない。選択というものは、何かの真実を選ぶというものではなく、1つの志向性でしかないのかもしれない。だからこそ、何を選ぶかで将来が変わってしまうということを重く受け止める必要がある。

 未来は、当然のことであるが不確定性が大きい。したがって、そこに選択のリスクがある。ここで重要なことは、リスクは、未来の指標だということだ。その動向は、現状値だけで決まるわけではない。現状を微分する、すなわち今の状況の変化度を知ることが重要だし、さらには、2次微分によって、その変化の変化度、すなわち加速度を知り、未来に対する判断を行うことが重要だ。

 未来に対して残らない選択を行うためには、過去から続く価値の共有だけではなく、未来を創造するための価値を創り出していくことも必要だ。

 未来は単に予測するものではない。未来をどう創るかは、われわれの意思である。

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