マネジメント

南原竜樹氏プロフィール

南原竜樹

南原竜樹(なんばら・たつき)1960年東京都生まれ。大学在学中に高級外車の並行輸入で起業し、88年オートトレーディングルフトジャパンを設立。輸入車ディーラー、インポーターとして事業を拡大。人気テレビ番組「マネーの虎」への出演などで知名度を上げる。2005年に英国MGローバー社の経営破綻の影響を受け、全従業員の解雇という事態に見舞われるも、会社を再生し、現在は旅館経営、自動車の個人売買、メディカルケア、レンタカー、出版事業など多方面で展開する。

 

絶頂からどん底に落ちた「マネーの虎」南原竜樹氏

 

 絶頂からどん底に落ちる瞬間はあっけなかった。

 業績は絶好調、新規事業のアイデアを持ち寄った応募者を査定するテレビ番組「マネーの虎」への出演で一躍有名人となり、破竹の勢いだった南原竜樹氏は、主要仕入れ先である英MGローバーが倒産したという知らせを聞き、にわかには信じられなかった。

 「知り合いから初めてそれを知らされた時は『えっ?』という感じでした。自動車業界では資本の移動はよくあることだから、まだどこかの傘下で再生するんじゃないかと思っていました。そしたら2週間後、本当に生産を中止して破綻してしまった」と、同氏は振り返る。

 南原氏は大学在学中、海外から日本への自動車の並行輸入で起業。その後、伊アルファロメオの代理店であるチェッカーモータースの買収、英ロータス、MGローバーの輸入権獲得などで事業を拡大した。そして、いよいよ上場へと準備を進めていた2005年4月、最悪の事態が襲ったのだ。

 ダメージは大きかったが、当時、会社の純資産は約45億円あり、優秀な社員も多かった。シミュレーション上では新たなブランド展開などでしのげるはずだったが、金融機関の反応は冷たかった。当時の借り入れ状況は、銀行13行から約30億円。これらがいずれも一斉に融資の引き上げにかかった。

 南原氏は自社ビルやショールームをすべて売り払い、営業活動ができなくなった。悩んだ末にたどり着いた結論は、全従業員263人の解雇。従業員の前でそれを告げた時、冷徹なマネーの虎は泣いた。

 

南原竜樹氏がサラリーマンにならなかった理由

 

 従業員の解雇手続きや税務署への対応といった敗戦処理が終わった後は、疲れきってサラリーマンとしての再就職も考えたという南原氏。だが、最終的にはたった1人での会社再建を決心することになる。同氏は当時の状況をこう語る。

 「就職先を探したのですが、求人情報誌を見ると35歳以上で就ける職は、夜間警備とタクシーの運転手だけ。ヘッドハンターもたくさん来たけれど、僕が有名だったのが仇になった。相手先の経営者にしてみれば、僕は使いにくそうな奴でしょうからね。あとは、ロータスの子会社にでも逃げて、2千万円ぐらいの年収をもらってやっていく選択肢もあったけどそれはしなかった。簡単に言うと、それでは面白くなかったからです」

 こうして南原氏は、「会社の再建」という最も厄介な道を選択することになる。

 とはいえ、事業資金どころか個人的な預金もなしというゼロからの再出発。自動車販売をやれば儲けるノウハウは十分持っていたが、何しろ資金が全くない。そこで、資本ゼロで始められる商売は何かと考え、リストラを行った知人の会社のオフィススペースを借りて、人材派遣業を始めた。家賃は出世払い、派遣する人材は自らの人脈をたどって確保した。

 「よく、どうやってモチベーションを保ったかと聞かれるんですが、僕にはもともとモチベーションがないんです。従業員を解雇して1日や2日泣くことはありましたが、大体いつも精神的にフラットだから、落ちることがない。もともとお金がない状態から起業したので、以前と同じようにゼロから頑張ろうと。考えてみたら、ゼロから始めるのは以前より簡単だったんです。最初に起業したときはファックスを買うのにも200万円以上掛かったし、海外との通信費も高かったけど、2度目はケータイとメールアドレスがあればスタートできました。以前は24年間で売り上げを100億円にしたから、今度は半分の期間で同じくらいにすることはできると思いました」

 

南原竜樹氏の名言「ちょっとだけ賢くやれば生き残れる」

 

南原竜樹氏

「ちょっとだけうまくやれば経営はうまく行く」と語る南原氏

 以降は、派遣事業で得た資金を元手に、M&Aの仲介、レンタカー会社買収、メディカルケア会社の買収、旅館の再生と次々に規模を拡大していくことになる。15年3月期には売上高100億円と、最盛期の水準に戻る見通し。予言どおり、鮮やかな復活を遂げた。

 「商売の失敗は山で遭難するわけではないので、マイナスではなくゼロに戻るだけ。挫折したと大騒ぎしている奴はただサボッているだけ。中途半端にカッコつけたがるから、ゼロからやり直せない。僕なんかは不安定な生活をむしろ好んでいますから。チマチマ賭けずに、リスクを最大限に取って、リターンは倍になるから、短期間で立て直せたんです」

 構造不況業種と言われる出版事業にも参入した。勝算について尋ねると、南原氏は

「日本の人口が減っていく中、棺桶屋以外はすべてが不況産業。そんなことを言っていたら、何もできなくなる。徹底的な合理化を行うなど、緻密な経営を行えばちゃんと成長できます」と、言い切る。

 アイデアマンとしての能力は健在だ。例えば旅館の再生を手掛けた時のこと。家族風呂と隣接していた客室とをつなぐ工事を行って客室露天風呂にし、常に満室状態の大人気の部屋につくり変えた。

 さらに、旅館では「FLコスト(食事の原材料費と人件費)」を下げるのが常識だが、むしろ料金に見合わないほどの料理を提供することで評判を高め、客室稼働率を高めた。また、買収した沖縄のレンタカー会社でも、それまでハイシーズンとオフシーズンの2種類しかなかった料金体系を見直し、何段階にも細分化することで顧客を増やすことに成功している。

 「僕に言わせると、ちょっとだけ賢くやれば会社は生き残っていけるんです。普通のことをきちんとこなしていない経営者が日本には多過ぎる」と、南原氏は言う。

 どん底に落ちる前と今とでは、経営者として変わった部分があるのだろうか。この質問に南原氏はこう答える。

 「以前は車が大好きで、仕事で遊んでいるようなものでした。今手掛けている事業もそれぞれ好きですが、一歩引いた目で経営ができる。例えば、以前は自社広告の写真に自ら指示を出したり、営業マンの頭越しに自分で車を売ったりしていました。でも、それは売上高100億円の企業の社長がすることではないですよね。今は、大人の経営ができるようになりました」

 そして、こうも言う。

 「経験を重ねているぶん、テレビに出たら以前より今のほうが(起業を目指す人に)いいアドバイスができるでしょうね」

(文=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

 

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