政治・経済

パナソニックが今春発売したスマートテレビのテレビCMがいまだ放送されていないことが物議を醸している。旧態依然としたテレビ局を批判する声が上がる一方で、結果的にはパナソニックの新製品への注目が集まり、評価が高まっている。 (本誌/村田晋一郎)

「誤報」に新聞各社が追従し一大騒動に

スマートビエラのマイホーム画面。画面上にはテレビ画面のほか、ウェブやSNSへの接続画面が表示されている

スマートビエラのマイホーム画面。画面上にはテレビ画面のほか、ウェブやSNSへの接続画面が表示されている

 事の発端は7月6日(土)の共同通信の報道だ。共同通信は「パナの新型テレビCM拒否 技術ルール違反と民放」との見出しで、パナソニックの新型テレビ「スマートビエラ」シリーズのテレビCMが7月になってもいまだ放映されていないことを報じた。

 スマートビエラは、パナソニックが4月に発売したスマートテレビである。スマートテレビとはインターネットとの融合を図るもので、通常のテレビ番組に加え、ネット上の動画やビデオ・オンデマンドサービスが視聴できるほか、TwitterなどのSNSの利用が可能になっている。韓国LG電子、シャープ、ソニーなどもネット接続を売りにしたスマートテレビを展開しており、次の競争領域と目されている。

 共同通信の報道では、パナソニックほどの大手広告主の新製品のCMを、民放テレビ各局が放送しないという事態の異常さを強調。その理由として、スマートビエラの起動画面にテレビ放送画面とインターネットの画面が同時に表示されることが、「デジタル放送のガイドラインに抵触する」ため、民放側がテレビCMの放送を「拒否」しているのだという。

 この報道に対して、当初、パナソニック側は否定も肯定もしなかった。テレビCMが放映されていないことは事実だったからだ。しかし、共同通信の報道の翌7日(日)には、新聞各社が一斉に報道。共同通信の論調に追従する形で、「CM拒否」や「ルール違反」などの文言が強調され、情報が拡散していった。そして、この各社の報道に反応し、7日以降インターネットを中心に大きな論争が起こった。

 その論調のほとんどは、テレビ局側の姿勢を糾弾するもの。テレビ局はインターネットを脅威に感じており、テレビ番組放映中に、同一画面内にインターネットのチャット画面などで自社に都合の悪い情報が並ぶのを嫌っているため、今回のCMの放送を拒否しているのだという。この議論の前提にある、テレビの報道が間違っていて、ネットの情報が常に正しいという考えには無理がある。しかし、テレビ局を旧態依然とした権威の象徴ととらえる向きには、テレビ局が自らの既得権益を守ろうとしているように映る。

 これだけインターネットが普及している状況で、テレビ局が拒否しているように見える姿勢は格好の攻撃材料になった。インターネットでは、テレビ局に否定的な書き込みが相次いだ。さらにラジオのパーソナリティーやテレビのコメンテーターまでこの話題に言及。「『CMで続きはウェブで』とやっているのに、ウェブをすぐに見られる機械は敵だというのは本末転倒」だという。

 しかしパナソニック関係者によると、新型ビエラのテレビCMが放映されていないのは事実だが、民放側が「拒否」しているわけではなく、いまだ協議の途中だという。もともと新技術導入の際には協議に時間を要するものであり、今回のスマートビエラは製品発売には間に合わなかったが、協議の遅れ自体は別に珍しいことではないようだ。

 またガイドラインに抵触するとされるスマートビエラの起動画面についてもオプションの1つにすぎない。インターネット画面とテレビ画面が常に同時に表示されるわけではなく、ユーザー側で設定可能で、起動時にテレビ画面を表示させることも可能という。「ルール違反」との報道は各社の勇み足と言える。

 パナソニックとしては、別に民放各社と敵対するつもりはなく、このような事態で逆に関係が悪化してしまうことは望むことではないという。

テレビが嫌がるテレビとして好評価

 こうしたパナソニックの困惑とは裏腹に、今回の騒動は「炎上マーケティング」的な注目の集め方をしている。電機メーカー各社がテレビ事業で低迷している中で、結果的にテレビが注目を集めることは久々の明るい状況と言える。

 そして注目の集め方も、スマートビエラの場合は、「テレビが嫌がるぐらい良いテレビ」といった注目のされ方だ。パナソニックの製品サイトへのアクセスは通常の4倍以上に高まり、動画サイトYouTubeに上がったCM動画の再生回数は59万回を超えている。

 今回の騒動においては、パナソニックのサイトにアクセスした結果、実際の商品の概要を理解し、音声認識機能をはじめ使い勝手の良い機能を称賛する声も少なくない。すべてを鵜呑みにはできないが、「絶対買う」という書き込みも散見している。

 スマートビエラについて、新聞広告やインターネット上の広告は展開されている。テレビCMが放映されていないことを考慮すると、ここまでの販売状況は非常に好調に推移している。

 「ビエラシリーズにはもともと根強いファンも多く、今回のスマートビエラも非常に好評」(家電量販店販売員)だという。

 高付加価値機能を盛り込んだ高価な大型テレビは、高年齢の富裕者層向けとの見方がある。一方でスマートビエラのような次世代のスマートテレビは、頻繁にインターネットを利用するユーザーのほうが製品の良さを理解しやすい。マーケティングの観点で言えば、今回の騒動は、製品の良さを最も理解できる層へリーチしたことになる。

 インターネット上での評判がどこまで販売活動に寄与するかは分からないが、テレビという既存の媒体を介さずに、このスマートビエラが売れたとしたら、テレビという媒体の宣伝効果そのものが揺らぐことになる。テレビよりもネットでの宣伝効果が高いことが証明されてしまえば、テレビに頼らないマーケティングが展開され、テレビのCMスポンサー離れが始まるかもしれない。テレビという代表的な民生機器での話だけに、今回の騒動はその端緒になる可能性がある。

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