マネジメント

 今回のテーマは、「知的財産をめぐるリスクと対応策」です。企業の経営資源はモノから知的財産にシフトしていますから、そのリスクについて理解を深めておくことは重要です。

 ということで、ここでは「サトウの切り餅事件」を基にして解説します。

 まずは事例を見ることにしましょう。

 

【 事 例 】

 正月の食卓を賑わせるお餅。従来火鉢などを使い、ときどき突っついたりして、中身が飛び出さないよう焼くのが一般的でした。

 ところが、最近はオーブントースターでお餅を焼く家庭が増え、焼いている最中に中身が飛び出してしまい、焼き網にくっついてしまうことが多くなっています。

 長年お餅を製造してきた越後製菓は、研究を重ね、オーブントースターで焼いても中身が飛び出さないお餅を開発、特許登録を取得しました。そのお餅には、側面の周囲を一周する切込みが1本入れられており、オーブントースターで焼くと切込み線に沿って上側が持ち上がるようになっていました。

 そんな新開発のお餅が発売された矢先、包装餅業界最大手の佐藤食品工業から、越後製菓製品とそっくりのお餅(サトウの切り餅)が売られていることが判明しました。

 越後製菓は、特許侵害を理由に製造販売の差止め等を求める訴訟を提起。ところが、佐藤食品は販売を中止せず、全面的に争ってきました。

 実に3年以上に及んだこの訴訟。結末はどうなったのでしょうか。

 

【解 説】事例から学ぶ特許侵害のリスク

 「サトウの切り餅事件」では最終的に越後製菓が勝訴し、佐藤食品は8億円を超える損害賠償および商品の製造禁止等を命じられました。包装餅で業界最大手であった佐藤食品ですが、当時の年間売上高約270億円のうち、製造禁止が命じられた商品の売り上げは約100億円だったといわれています。この数字から、佐藤食品の受けた打撃がどれだけ大きかったかがお分かりでしょう。佐藤食品は、「似たような切り込みを入れたお餅を販売しただけ」でした。それだけで会社を揺らがせる大打撃を受けてしまう。これが特許の恐ろしさです。

知的財産の特徴と調査・検討の重要性

 特許の恐ろしさは、権利の強力さにあります。すなわち、特許を有する者は、フリーライダーに対して侵害行為の禁止を求めることができるのです。これは強力です。

 また、そんな強力さと併せて、特許には「権利範囲が曖昧」という特徴もあります。

 特許の範囲は、特許出願のときに提出する書面によって決められます。なので、読み手によって受け取り方が異なり得る記載があると、権利の範囲があいまいになってしまうのです。サトウの切り餅事件においても権利の範囲が争点となり、第1審では越後製菓が敗訴していました。

 権利範囲のあいまいさは、特許以外の知的財産全般に通じる特徴でもあります。

 したがって、もし同業他社と競合する商品を販売する場合には、発売前に競合商品について特許・商標等の登録があるかどうかを入念に調べ、その権利の及ぶ範囲を慎重に検討することが非常に重要となります。なので、もし仮に佐藤食品が「上下面それぞれに十字型の切り込みを入れておきさえすれば、越後製菓の特許を侵害しないで済む」と考えていたのであれば、特許が及ぶ範囲に関する調査・検討が不十分であったと言わざるを得ません。

新発明はすべて特許登録を行うべきか?

 知的財産権が強力な権利であるならば、新発明はすべて特許登録を行うべき、のように思えます。ですが、そうとは言い切れません。特許登録をすると、発明の内容が公開され、手続き費用が掛かります。発明内容やコストに照らしてよく検討すべきです。

 越後製菓が発明した商品は「側面周囲に1本切り込みを入れたお餅」でしたから、これを販売すれば必然的に発明内容は他社に明らかになり、もし越後製菓が特許登録を受けていなかったら他社にフリーライドされ放題となってしまいます。ところが、仮に発明内容が「△△を○グラム、××を○グラムの割合で混ぜてできる洗剤」ならばどうでしょうか。それを販売したところで、発明内容はそうやすやすとは分かりません。発明内容の公開によって真似されるリスクを回避するために、「企業秘密」として厳重に管理し、公開しないでおくという経営判断が下されるケースも実際には少なくないのです。その場合は、その企業秘密を知る関係者の秘密保持の方法に焦点が当てられることとなるわけですが、この辺りはまたの機会に詳しくご説明します。

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