マネジメント

昭和50年代半ば、鬼才升田幸三九段が弊誌対談のホストを務めた。型にとらわれず、ズバッと本質に斬り込む対談は人気を博した。今回の対談相手は長谷川隆太郎氏。ざっくばらんな三菱紳士で知られた名経営者だ。(1980年7月8日号)

 

長谷川隆太郎

長谷川隆太郎(はせがわ・りゅうたろう)
(1909〜2000)京都生まれ、京城帝大卒。朝鮮化学に入社、合併に伴い三菱化成(現・三菱化学)へ。副社長時にアジア石油社長を兼任、晩年にも佐世保重工業で活躍した。

練って待っていれば、うまくタイミングをつかめる

升田 学校を出られてすぐ三菱に入られたんですか。

長谷川 学校を出たのは昭和6年です。山下太郎がやっていた朝鮮化学に入りましてね、昭和15年だったですか、三菱と合併したので三菱マンになったわけです。

升田 三菱とここ(アジア石油)はだいぶ違いますか。

長谷川 三菱は、人材は多いですが実行力ということになれば、相対的ですが慎重。こちらは、いけーっと号令かけたら突っ走る連中が多いですね(笑)。経営ってのは毎日が戦争ですから、やはり実行力は大事です。ま、こぢんまりやってきた会社なので社員は家族。ですから、難局も乗り越えられるし、だんだんよくなりますよ。

升田 団結心が強いですね。

長谷川 ですから、ドン底の状態の時は上に立つ者がオレに付いてこい、心配するなと引っ張っていかんとダメですね。私なんかも、自信はなかったがとにかく私がいる間は迷惑かけないからと銀行に行ったりしてね。これも終戦の時にいじめられたり、裸一貫で引き揚げてきた体験のお陰だと思います。必ず、いい時が来ると希望を持ってね。

升田 そういう哲学、これが支えになりますね。

長谷川 やるだけやったんだから結果はどうでもいいじゃないか、というような運命論者になるんですね。悪いことしているわけじゃない、よくなろうとして努力しているんだから、その先はどうなっても仕方ないじゃないかということです。

升田 そうでしょう。あなたはいろいろと苦労された方ですからね。

長谷川 面白い話があるんですよ。朝鮮から引き揚げてきた時、家内はリュックに荷物を詰めていたんです。ところがダイヤの指輪を失くしてね、見つからない。あれば進駐軍に没収されるかもしれなかったが、その必要もなくなってしまった。

升田 もったいない……。

長谷川 それが出てきたんです。引き揚げて3年もたった頃、そのリュックをポンポンと叩いていたら、ダイヤが出てきた。さっき言ったことですが、運が良かった。

升田 人力以外のものが作用したんですね。私、思うんですが「果報は寝て待て」と言いますね。これは1つの真理だと思いますが、下の句の寝て待ては「練って待て」の間違いじゃなかろうかと思う。練って待てをどこかではき違えて寝て待てにしたんじゃないでしょうか。将棋の経験からそう思います。

長谷川 言われるとおりですね。

升田 寝転がって果報が来るわけがない(笑)。

長谷川 それと諦めないことです。商いは飽きない、練って練ってどうにもならんでも、諦めずに練っとったらいいんですよね。そうやっていると、うまくタイミングをつかめる。練ってなかったらそうはいかない。寝てれば果報は通り過ぎる(笑)。

 

升田幸三

実力制第4代名人・升田幸三

長谷川隆太郎氏の留置所生活の経験とは

長谷川 やはり、その人次第でしょうかね。結局、組織も社会も最後は人ですから。

升田 人を使うにしても、将棋でいう「待ち」や「間を置く」なんてのが難しい。

長谷川 終戦の時、朝鮮にいて会社の整理に当たっていたんですが38度線にある2つの工場に金を送ってやらんとどうにもならないというので、密使に金を持たせて届けたんです。ところが、それがバレて留置所に入れられた。

升田 ほう、えらい目に遭いましたね。

長谷川 面白いもので、あそこに入りますと初めての人間は心が落ち着かないものだから、立ったり座ったりと動物園の熊みたいになります。牢名主に「長谷川さん、そんなにしていたら3日と持たんよ、病気になるよ。1週間で出られるにしても、1カ月くらいいるつもりでなきゃダメですよ」と言われてハッとしました。その後、入ってくるのを観察すると、新入りはウロウロ、前科者は逃げ回る必要がないもんだからグーグー寝るんですよ。升田 (大笑い)……入ってくるのもいろいろあって、それぞれ考え方が違うわけだ。

長谷川 ぼくは1週間くらいで出ましたが、「長谷川、釈放だ」と言われた時の嬉しさは格別でした。ガチャガチャとカギを外してくれた音は今でも耳に残っています(笑)。日本でのことならともかく、ああいう状況で、しかも現地ですからね。あの体験は、今になってみると懐かしいなあって感じですね。

升田 起伏のある人生ってのは大きな財産ですね。なだらかなっていうのは幸福かもしれませんがダメだな。ものの価値が分からんからね。

長谷川 おっしゃるとおりですね。

 

【温故知新】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る