マネジメント

 ワイキューブ社長時代、中小企業のブランディングや新卒採用の促進で、メディアに取り上げられることが多かった安田佳生氏。著書の『千円札は拾うな』(サンマーク出版)がベストセラーになり、業界内外で注目された時期もあった。

 だが、社員への過剰な還元と、本業の行き詰まりによって財務状況が悪化し、2011年3月に、民事再生法の適用を申請。現在、「境目研究家」という不思議な肩書でさまざまな活動に取り組む同氏に、失敗の要因と今後について語ってもらった。

安田佳生

安田佳生(やすだ・よしお)
1965年生まれ。大阪府出身。リクルート勤務後、90年にワイキューブを設立。中小企業向け人材コンサルティングやブランディングで業績を伸ばすも、2011年3月に民事再生法適用を申請。現在、ぼくら社編集長、えんなり社副社長、NPO法人中小企業共和国理事長など、さまざまな活動を行っている。

「自分は社長に向いていなかった」

-- 現在はどのような活動を。

安田 ひとつは、経営者時代の紆余曲折やこれから仕掛けていくブランディングなどについての講演活動。あとは、ぼくら社という出版社の編集長、えんなり社という会社の副社長、中小企業共和国というNPO団体の理事長などをやっています。社員がいないので、経営者時代よりは忙しいですね。

-- 中小企業のブランディングには、今も関心があるのか。

安田 中小企業に優秀な人材を入れたり、中小企業の業績を劇的に上げたいという想いは昔も今もあります。例えば、えんなりという会社では、外部からの問い合わせを増やすために、SNSなどへの書き込みをアウトソーシングで請け負ったりしています。この他、社長がこだわっているビジョンを、商品パッケージに落とし込んだり、社員の評価制度に組み入れたりといったことも行っています。

-- ワイキューブ時代の経験は生きているか。

安田 当時、うまくいったのは話題作り。昔は何か仕掛けるとニュースとして取り上げられることが多かったが、今は無料で取り上げてくれるメディアが増えたので、そういうところからお客さんを増やしていきたいと思っています。

 基本的に変わらないのは潜在マーケットを狙うこと。中小企業が欲しいものを提供するのではなく、欲しいとすら気付いていないことを提案する。ワイキューブ時代は、新卒採用を考えていない会社にそれを考えてもらう仕掛けを行ってきましたが、今もその姿勢は同じです。ただ、そういうやり方だから、僕の会社が潰れたという人もいるでしょうけど(笑)。

-- 過去の失敗体験から学んだことは。

安田 一番の教訓は、僕は社長に向いてないということ。とにかく人についてもお金についても、管理が苦手なんです。経費の中では人件費が一番高いのですが、僕は社員の給料を高くするのが仕事だと思ってやってきた。つまり、利益を出せない社長だったんです。社員の給料を高くしていたし、環境も良くしていましたから働く側からすると良い社長だったとは思います。

売り上げとサービスとの格差に不安

-- それ以外の要因は。

安田 マーケットサイズを完全に見誤ったのが大きかった。新卒採用を行うのは毎年2万社くらいでしたが、われわれは20年やって6千社くらいは開拓した。ピーク時の売上高が40億円くらいで、100億円くらいにはなると思っていましたが、そこでピタリと伸びが止まった。やり方を変えれば売り上げが増えると思って続けましたが、どんどん利益率が下がる状況でした。

 売上高が15億円ぐらいの時が、経営者として一番面白かった気がします。その後は、放っておいても売り上げが上がったので経済的には恵まれていましたが、結構虚しかったですね。会社を大きくし続けることに、モチベーションが上がらなかった。知名度が上がり、マーケティングの戦略が当たって、新入社員でもいきなり1千万円単位の契約が決まったりすると、自分は力があると勘違いする社員も出てきます。商品レベルが売り上げに伴って上がっていないことに不安は感じていました。だから、会社を潰す前の数年間は、売り上げよりもお客さんに対する提案の数を評価するように方向転換も考えましたが、目に見えて現場が動かなくなりました。

-- もう一度経営者になったら成功できると思うか。

安田 無理でしょうね。売り上げを上げるだけなら今のほうがうまいですが、自分の社長としての決定的な欠陥も分かって、それを克服しているとは思えないので。僕はどうしても、経営者と社員は違うというふうに割り切れない。

-- 今後やりたいことは。

安田 今は社長ではないですが、中小企業10万社をつなげる活動を進めていきます。一緒に採用や研修を行えばコストも下げられるし、企業同士が協力して社員教育を行うなど、いろいろなことができます。今は50社程度ですが、10年以内には10万社のネットワークを実現したいと思っています。

(聞き手/本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

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