政治・経済

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、タイ大手アユタヤ銀行の買収を発表した。「アジアNO.1バンク」を目指す戦略の一環だ。新興国での銀行間競争の激化が予想される中、海外戦略の在り方が問われる。 (本誌/鈴木健広)

アユタヤ銀行買収で事業基盤を強固に

 メガバンクが収益基盤の拡大を目的に、成長著しい東南アジアでの事業基盤の強化や、現地金融機関への出資・業務提携を一段と加速させている。

 三井住友銀行は2007年にベトナムのエクシムバンクと資本・業務提携、今年5月にはインドネシアの銀行BTPNの一部株式を取得した。みずほ銀行も今年1月にシンガポール支店ヤンゴン出張所を、7月にはカンボジアにプノンペン駐在員事務所を開設するなど、東南アジアでの営業体制拡充を進めている。

アユタヤ銀行買収を、2012年度からの中期経営計画で掲げた“アジア域内でのトップライン収益3年間で50%程度伸長”の足がかりの1つとする

アユタヤ銀行買収を、2012年度からの中期経営計画で掲げた“アジア域内でのトップライン収益3年間で50%程度伸長”の足がかりの1つとする

 その中でも特に積極的な取り組みが目立つのは、国内銀行最大手の三菱東京UFJ銀行(BTMU)を傘下に持つMUFGだ。「アジアは第2のマザーマーケット。高まりつつあるニーズへの対応を強化する」(平野信行・MUFG社長)として、中期経営計画で「アジアNO.1バンク」という目標を掲げる。

 昨年12月には、ベトナムの国営大手銀行、ヴィエティンバンクと資本・業務提携を締結。今年に入ってからは、カンボジアとミャンマーの大手民間銀行や、インドネシアの金融公社との業務提携締結を矢継ぎ早に発表した。

 MUFGは今年11月を予定として、タイ大手アユタヤ銀行の買収を発表した。発行済み株式の最大75%の取得を目指し、買収総額は約5600億円に達する見込みだ。タイ中央銀行による出資規制に伴い、買収後にはアユタヤ銀とBTMUバンコック支店を統合させる。

 アユタヤ銀は、68年の歴史を持つ、資産規模ではタイ国内5位の商業銀行。リテール事業に強みを発揮、タイにおける今年3月時点でのマーケットシェアは「個人ローン」が3割弱、「クレジットローン」と「オートローン」は各2割弱でそれぞれ1位を占めている。

 対するBTMUバンコック支店は、約50年間にわたり、タイに進出する日系企業に加えて、地場企業や欧米系の多国籍企業とのビジネスを行ってきた。タイにおける外国銀行の法人ビジネスでは、最大規模を誇っている。

 MUFGが統合で目指しているのは、「アジアにおける一層の事業展開を目的とした、〝総合的な商業銀行プラットフォーム〟の構築」(広報部)。両社が補完し合うことで法人と個人双方の事業基盤をより強固なものとし、「これまでにない付加価値の高いサービスを提供する」(同)という。

三菱UFJの課題はリスク管理と積極投資の両立

 アナリストからは、「MUFGが海外でビジネスを一層進めるための非常に正しい選択」(BNPパリバ証券の中空麻奈氏)、「アジアでコアとなる銀行を取得することで、現地の成長を取り込むことができる」(大和証券の高井晃氏)など、今回の買収について評価する声が上がっている。

 BNPパリバの中空氏は、「タイで強固な営業基盤を持ち、財閥系の〝由緒正しい〟アユタヤ銀を子会社に持つことは、出資比率規制の厳しいアジアでシェアを確保するための重要な足掛かりになる」との見方を示す。

 MUFGからアユタヤ銀に役員を派遣し、直接経営に乗り出す取り組みに関しても、中空氏は「海外事業でリスクを見極めながら、リターンを確保するためには必要な方策」とみている。

 MUFGではアジアにおいて、現地企業や多国籍企業からの事業収益が、日系企業から得る収益を上回っている状態。今回の買収によって、現地企業を対象としたビジネス推進に一層弾みがつきそうだ。欧州危機の影響で傷を負った欧米系の金融機関に対し、財務健全性を維持している邦銀にとって、海外の優良案件への出資、買収のチャンスが今も開かれている。大和証券の高井氏は「今年と来年にかけて、海外の金融機関に出資するファンドがイグジット(株式売却などで投資回収を図る)の時期を相次いで迎える。体力の弱った欧米系金融機関はこれらを買う余力がないので、邦銀にとっては追い風だ」と説明している。MUFGは今後も、「グループ戦略に適合性の高い案件については積極的に検討する」と意気込む。

 一方で中空氏は、「タイをはじめとする東南アジアでも、将来的には競争激化による利ザヤ縮小に直面する懸念がある」と指摘する。また、米欧系の金融機関の回復基調が高まれば、有望案件の争奪戦が始まる可能性もある。

 MUFGには、「リスクを慎重に算定しながら、できるだけ早いうちに、将来が期待できる領域に同業他社に先んじて参入する」(中空氏)という取り組みが欠かせない。グローバルベースでの事業基盤拡充に向けて、積極的な投資とリスク管理の両立という難しい対応が求められる。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る