政治・経済

東京証券取引所と大阪証券取引所が合併して誕生した日本取引所グループ(JPX)。6月に子会社である東証、大証の社長に証券業界から人材を登用、7月には大証の現物株市場を東証に統合させた。海外の取引所との競争が激しさを増す中、JPXは存在感を発揮できるか。 (ジャーナリスト/森田弘)

東証の存在感低下と日本取引所の誕生

上場企業数では世界3位になったが課題も多い

上場企業数では世界3位になったが課題も多い

 7月16日午前9時過ぎ、東京都中央区の東京証券取引所。6月に就任した東証の清田瞭社長は、巨大な電光掲示板を背に、統合市場が無事スタートしたことを受け、「安心した」と述べた。しかし、その後はこの日の統合について「第一歩」「通過点」にすぎないと強調。厳しい表情で「世界で生き残るだけではなく、勝ち残る市場にしていくため、全力を挙げて取り組んでいきたい」と続けた。

 「あれは清田社長の率直な思いでしょう」とある東証関係者は指摘する。衰えたりとは言え経済大国の日本で、国内の取引所として圧倒的な地位を築いた東証。現物株市場の統合で、中長期的にはこれまで以上に取引に厚みが出ると期待される。取引所の株取得には外資規制もあり、海外の取引所に買収される懸念も今のところはない。すると、黙っていても一定の収益を挙げられる東証が、「生き残る」ことは容易だと思える。

 しかし、「勝ち残る」となると話は別だ。東証に上場する海外企業はピークの10分の1以下に減り、現在は10社程度。一方で、欧米は大きく先行しており、アジア勢の追い上げも厳しい。昨年来はアベノミクス株高で日本市場に追い風が吹いているが、これはあくまで一時的なものでしかない。実際、世界のどの取引所よりも焦って足元を固めなければならないのは東証、ひいてはJPXかもしれないのだ。

 具体的には、世界最大のニューヨーク証券取引所は6年も前に、パリなどで取引所を運営するユーロネクストと大西洋を隔てて大合併を果たした。だが、こうして誕生したNYSEユーロネクストも昨年、原油先物などのデリバティブ(金融派生商品)に強い米インターコンチネンタル取引所(ICE)に買収されることが決まった。こうした華やかな取引所間のM&Aは他にもあるが、東証などがそのプレーヤーとして名前が挙がったことはほとんどない。

 一方のアジア。香港証券取引所は昨年、非鉄金属で最大のLME(ロンドン金属取引所)を買収した。上場企業の時価総額でも成長を続け、香港と上海と深センを単純合算すると、JPXを上回っているのが実情だ。

 現物株市場の統合で、東証での上場企業数は世界3位に浮上した。しかし、首位がインドの取引所であることからも分かるように、これは取引所間競争の決め手になるものではない。むしろ、ICEとNYSEのM&Aをみても分かるように、デリバティブ優位の流れがあり、これがJPXの最大の課題なのだ。

日本取引所グループは総合取引所を目指す

 JPXの中でデリバティブに強みを持つのは大証。来年3月には現在、東証株価指数(TOPIX)先物などの東証のデリバティブを今度は大証に集約して強化を目指すが、世界的な存在感でみた場合、現状はお寒い限りだ。

 JPXの斉藤惇CEOは6月の株主総会で「(大証のデリバティブは)まだ世界で17、18番目くらいなので、統合で上位を目指したい」と強調した。

 活性化に向けて、以前は東証と大証で別々だったデリバティブの清算業務をJPX傘下の清算機関、日本証券クリアリング機構に一本化し、投資家の利便性を高めた。また、現在は午後11時半までのTOPIXや日本国債の先物の夜間取引時間を来年3月に延長し、翌日の午前3時までにすることを決めている。しかし、抜本的な強化策はこれからだ。

 一部で大きく期待されているのは、「総合取引所」への脱皮。JPXに欠けているのは商品先物の取引で、中期経営計画では既に、この分野への進出を掲げている。それには、独自で商品先物の取り扱いを始めるか、東京商品取引所など既存の取引所とのM&Aや提携をとおして進出するのかの2通りある。

 東商取との統合は以前から取り沙汰されている。既に総合取引所を実現するため、取引所が扱う分野によって金融庁、経済産業省、農林水産省に分かれていた所管官庁を原則、金融庁に一本化する改正金商法が昨年成立。政府関係者のほとんどは、JPXと東商取との統合を前提に考えていたようだ。しかし、赤字続きの東商取(当時は東京工業品取引所)との統合にJPX側は消極的になっている。統合しただけで低迷している商品先物の取引が一気に活性化するとは限らず、1月の統合と同時に上場したJPXとしては、株主の賛同を得られる青写真を示す必要がある。

 JPXは7月19日に2014年3月期連結決算の業績予想を上方修正した。売上高に相当する営業収益を従来予想より145億円多い1015億円に、営業利益を135億円多い365億円に引き上げた。株式相場の活況が主因で、株価も上場時の数倍に上昇している。

 だが、アベノミクス相場がいつまでも続く保証はどこにもなく、デリバティブ強化などをどのように実現するかが注目される。東証の清田社長とともに6月に就任した大証の山道裕己社長は大阪市内で開いた会見で「魅力的な上場商品を投入したり、グローバルスタンダードに立ったシステムを導入するなどして、デリバティブ市場を活性化していきたい」と述べた。

 清田社長は大和証券グループ本社から、山道社長は野村証券から就任し、2人を招聘したJPXの斉藤CEOも野村出身だ。証券市場を現場の肌感覚で知っている3人の首脳が、デリバティブを含め、日本の証券市場をどのように強化し、世界の取引所と渡り合うか。経営統合の真価が問われる局面を迎えたと言えそうだ。

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