国際

オバマ大統領と安倍晋三首相

オバマ大統領との友好ムードを演出した安倍晋三首相(左)(Photo:時事)

日米首脳会談でロシアの盗聴を警戒したオバマ大統領

 4月23〜25日、米国のオバマ大統領が国賓として訪日した。23日夜、安倍晋三首相とオバマ大統領が「すきやばし次郎」で鮨を一緒に食べるなど、日米の外交当局者は、友好ムードの演出につとめた。オバマ大統領が、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用範囲であると述べたことの政治的意味は大きい。

 それだからといって、尖閣に中国軍が上陸してきた場合、ただちに米軍が出動するということではない。日米安保条約第5条には、〈各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。〉と記されている。

 ここで重要なのは、「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」という条件だ。米大統領は、陸海空軍の最高司令官である。したがって、ひとたび戦争が始まれば、大統領は軍を自由に動かすことができる。しかし、米憲法で宣戦布告を行う権限は、大統領ではなく議会にある。仮に中国軍が尖閣に上陸したとしても、米議会が中国との宣戦布告を行うとは思えない。現実的に考えた場合、自衛隊が中国軍と対峙することになる。

 オバマ大統領は、国賓として来日したにもかかわらず、迎賓館に宿泊しなかった。迎賓館に泊まらなかったことは深刻だ。米国が、盗聴を警戒したというのが筆者の見立てだ。

 米国は、日本が盗聴することは、夢にも考えていない。しかしロシアや中国などの第三国が迎賓館を盗聴することは可能だと考えたのであろう。それだからオバマ大統領の宿泊場所は米国大使館隣のホテル・オークラになった。

 重要な打ち合わせや会議はすべて大使館内の盗聴防止が完璧に施された特別会議室で行い、ホテルの部屋にも盗聴防止用の特殊機材を持ち込んだのだと思う。

 なぜ米国が、これほど盗聴に神経を尖らせているかというと、元CIA(米中央情報局)の盗聴専門家のスノーデンがロシアに亡命したからだ。インテリジェンスの世界では、常に性悪説に基づいて、最悪の事態について考える。

 スノーデンによる技術流出で、ロシアの盗聴技術が飛躍的に高まっている可能性があるので、オバマ大統領は訪日中も細心の注意を払ったのだと思う。

 

対ロシアで融和外交路線を取らざるを得ない日本

 

 日米首脳会談の影の主役はロシアだった。4月25日に発表された「日米共同声明:アジア太平洋及びこれを越えた地域の未来を形作る日本と米国」では、ウクライナ危機をめぐる対露制裁についてこう記されている。

 〈日米両国は、G7のパートナーと協調し、クリミアを併合しようとするロシアの違法な試みについて同国を非難し、また、その遺憾な行為について同国に対する更なる措置を緊密に協議しているとともに、同国に対し、ウクライナにおける緊張を緩和するよう強く求めている。日米両国は、共に、ウクライナの主権、領土の一体性及び経済的な安定を支援するための具体的な措置を講じている。〉

 一見すると、ロシアのクリミア併合を厳しく批判しているように見えるが、ウクライナ問題をめぐるロシアに対する非難や制裁に関して、日本は慎重な態度を崩していない。その理由は2つある。

 第1は、北方領土交渉が停滞することを防ぐためだ。帝国主義外交の特徴は駆け引きだ。ロシアは、クリミアを編入したために、帝国主義的な領土拡張政策を展開していると非難されている。

 いくら非難されてもロシアがクリミアを手放すことはない。圧倒的多数のクリミア住民が、一部にネオナチを含むウクライナの現政権を忌避し、ロシアへの編入を望んだのは事実なので、プーチン政権は強気になっている。ロシアが現在、占拠している北方領土を日本に引き渡せば、「クリミア編入の目的は領土拡張ではなく、地元住民の意向にこたえ、クリミア住民の人権を守るためであった」というロシアの説明にも説得力が出る。

 第2は、日本が米国と連携して、本格的な対露包囲網を形成しようとすると、当然、ロシアは対抗措置をとる。

 中国との軍事的、政治的連携を強化することは、ロシアが行使することのできる重要なカードだ。ロシアが力を用いてクリミアを編入した事例に刺激され、中国が力によって尖閣を奪取する誘惑に駆られる危険がある。

 この2つの危険を避けるために、日本は対露融和外交を行っている。具体的には、日本のロシアに対する非難や制裁は、必ず米国、EU(欧州連合)の後で行われている。この路線が当面、継続されるであろう。

 

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る