政治・経済

毎年7月恒例の経済3団体の夏季セミナー(夏合宿)が行われた。財界人たちの一番の関心事は来年6月に交代する経団連会長人事だったが、キーマンの米倉弘昌会長は「ノーコメント」と沈黙を貫いている。会長レースの現状を取材した。 (ジャーナリスト/梨元勇俊)

日立・川村氏が有力か

経団連次期会長候補として名前が挙がる川村隆・日立製作所会長

経団連次期会長候補として名前が挙がる川村隆・日立製作所会長(写真:時事)

 参院選直前に行われた今年のセミナーは自公民政権の大勝を前提に、税制改正や規制緩和など「決められる政治」に対する注文が相次いだが、参加した財界人たちのもっぱらの関心事は来年6月に交代する経団連会長人事だった。次期財界総理には、今後3年間の長期安定政権が期待される安倍晋三首相と協力を深め、必要な時には対峙しながら、日本経済の再生を後押しする役割が期待されている。自身が所属する企業の業績にも直結するだけに無関心ではいられない。

 現会長の米倉弘昌氏は6月4日の経団連定時総会を前にしたマスコミ各社とのインタビューで「後任会長は製造業の経営者が望ましい」との考えを示唆している。

 通常、次期会長は副会長の中から選ばれる。対象は事務総長兼務の中村芳夫氏を除く17人。このうち製造業に所属しているトップは8人だ。

 当初、最有力とみられていたコマツの坂根正弘相談役は、来年で経団連を卒業する見通し。新日鉄住金の友野宏社長も、同社の三村明夫相談役が11月に経済3団体の一角を占める日本商工会議所会頭に就任するため可能性はほとんどない。アサヒグループホールディングスの荻田伍会長と、王子製紙の篠田和久会長も製造業出身ではあるが、今のところ候補には上がっていない。

 衆目の一致する最有力候補は日立製作所の川村隆会長だ。3年前に同社の業績をV字回復させ、経営手腕には定評がある。経団連のセミナーでは筆頭副会長として議長を務めた。セミナーの参加者はみな日本を代表する企業の経営者で論客揃い。持論の展開に熱が入る余り、ともすれば制限時間をオーバーして発言する人も目立つが、川村氏は30人余りの出席者の全員に発言の機会を与え、ほぼオンタイムで会議日程を終了させて、周囲を「さすがの手腕」とうならせた。

 対抗とされる三菱重工業の大宮英明会長は海外出張のためセミナーを欠席した。次期政府専用機に、同社が開発中の中型航空機MRJ(三菱リージョナルジェット)が調達先のひとつとして検討されていることが伝えられるなど、MRJの売り込みに懸命だ。

 しかし口さがない財界人からは「セミナーの日程はかなり前から分かっていたはず。経団連の重要行事のひとつであるセミナーを欠席したのは会長を引き受けたくない意思表示だ」との観測も聞こえてくる。

 トヨタ自動車の内山田竹志会長もセミナーデビューとは思えない堂々とした発言ぶりで注目を集めた。トヨタは創業家の豊田章一郎氏の長男で、目下、日本自動車工業会会長を務めている豊田章男社長が来年以降、経団連副会長に入り、〝次の次〟の会長を狙うとの見方が主流で、内山田氏は章男氏が登板するまでの「つなぎ」との見方が主流だった。だが、アベノミクス効果で円安株高が加速して、トヨタの業績は急回復。「日本経済界の顔にはやはりトヨタがふさわしいのでは」「トヨタなら金も人もある」との待望論が出始めている。

急浮上の佐々木氏だが

 だが、夏のセミナーで参加者の耳目を最も集めたのは東芝の佐々木則夫副会長だった。スタッフの作成した資料に頼らない理路整然とした闊達なコメントは群を抜いていた。昨年末から政府の経済財政諮問会議の民間議員を務め、参院選後の8月も成長戦略の肉付け作業で官邸に通うことになる。就任は経団連副会長になる前だから、経団連代表という位置付けではなく官邸に1本釣りされただけで、安倍首相とは頻繁に会うことができる仲だ。2009年からの民主党政権時代に経団連が政治献金のあっせん廃止を決めたことや、財界と自民党とのパイプが細っていることもあり、「安倍政権と距離の近い財界人のひとり」として期待をかける者もいる。

 だが、佐々木氏の経団連会長昇格には障害がある。西室泰三相談役の存在だ。西室氏は今年6月20日に77歳にして日本郵政社長に就任して話題を集めたが、出身企業の東芝でも隠然とした力を誇っている。1996年の社長就任当時、300億円近い赤字を抱えていた東芝の経営を執行役員制度の導入やIT(情報技術)部門の強化で立て直した名経営者だ。芝浦の東芝本社の役員フロア、角部屋で最も見晴らしの良い執務室は、かつて「財界総理」の名前をほしいままにした土光敏夫氏の使っていた部屋だという。

 事情通によれば東芝の権力構造は入れ子になっている。つまり、西室氏、岡村正相談役(日商会頭)、西田厚聰会長、佐々木氏と過去4代のトップ経験者のうち、西室氏は西田氏を、岡村氏は佐々木氏をかわいがっており、西田氏を次期経団連会長に推したかった西室氏は、西田氏を東芝の会長に温存し、佐々木氏を副会長に据えたという。

 決定的なのは後任人事を決める側の米倉氏と西室氏が犬猿の仲だということだ。2010年末、東京で行われた日米財界人会議で西室氏は、日本側議長だった米倉氏がとりまとめた議長総括に「議論の中身がすべて反映されていない」と異議を申し立てた。よもや日本側の参加者から反対意見が出るとは思わなかった米倉氏は驚き、「最初に取りまとめは事務局一任と確認したし、あなたも了解したでしょう」とやり返したのは知る人ぞ知る話だ。

 周囲の関心は強まるばかりだが、米倉氏は「後任人事の話は住友化学のトップ人事を含め、コメントいたしません」とポーカーフェイスを崩さない。今のところ、大本命は川村氏だが、就任時に74歳、4年の任期を全うすれば78歳になる年齢がネックになる。「女性と若者の活力で日本経済再生」をうたう安倍首相は50代。「トップは必ずしも最年長者でなくてもいいのではないか」という経団連副会長がいることも付記しておく。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル   不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。  かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。  この登…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界11月号
[特集]
運の科学

  • ・北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
  • ・江口克彦(江口オフィス社長)
  • ・畑村洋太郎(畑村創造工学研究所代表)
  • ・藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授・内閣官房参与)
  • ・角居勝彦(日本中央競馬会調教師)
  • ・桜井章一(雀鬼会会長)

[Interview]

 安永竜夫(三井物産社長)

 「やるべきことは2つ。方向性を指し示し、トップ同士の関係を構築する」

[NEWS REPORT]

◆東芝メモリ買収の影の主役 産業革新機構の収支決算

◆電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年

◆60代を迎えた孫正義 ソフトバンク300年の計への足固め

◆出版不況の風向きは変わるか!? 常識を覆すオンリーワン作戦!

[政知巡礼]

 若狭 勝(衆議院議員)

 「自民党のしがらみ政治をぶった斬りたい」

ページ上部へ戻る