マネジメント

「損だと思いながらも挑戦することが必要」

サントリーの佐治敬三氏が、まだ青年将校と言われていた1973年に、弊誌主幹の佐藤正忠がその人物像を本人とその周辺にインタビューしたものだ。佐治氏の言葉は既に深い。(1973年10月号)

 

佐治敬三

佐治敬三(さじ・けいぞう)
(1919〜99)大阪府生まれ。経営者。大商会頭など多くの公職も務め、文化活動や社会貢献で日本の発展に寄与した。

佐治敬三を変えた「ビール」への挑戦

 佐治敬三氏の人物が大きく変わったことを考えてみると、それは、やはり〝ビール〟への挑戦からであろう。

 今でこそ、サントリービールはビール界でもかなりのシェアを持つようになったが、最初の頃は、ほんの0・1%くらいにすぎなかった。ウイスキーで儲けた利益をどんどんビールにつぎ込んでゆく。そして、出血に次ぐ出血。サントリーは大丈夫か、という噂さえ立った。

 しかし佐治氏はじっとその苦しみに耐えた。佐治氏は、今こう語る。

 「ところがね、面白いもんですよ。ビールにはむろん相当金が掛かる。だけど、そこで社員が燃えるんですよ。金はもちろんそっちに流れた。しかしそこで、ビールを何とかしなければならない。シェアを拡大しなければならない。売らなければならない。社員が燃える。すると、その炎の勢いが燎原の火のように、全社員に移ってゆきましてね。逆にウイスキーがよくなり、スコッチ何するものぞという意欲に代わり、新しいシェアを獲得し、ウイスキーの売れ行きが伸びていく。会社全体が火の玉になってきたんですね。

 ぼくはむろんウイスキーだけをやっていれば不安もなく、安全ですよ。だけど、人間は、いつも何かに挑戦している。ソンだと思いながらも挑戦するということが必要なのではないでしょうか」

 それまで、どちらかというと無口で、バーや宴会に行っても、静かに酒を飲んでいた佐治氏が、人が変わったように、サントリーのコマーシャルソングを歌い、サントリービールを飲み、サントリーウイスキーを人に勧めるようになった。東急電鉄社長(当時)の五島昇氏も、

 「佐治君は、全くあのビール以後、人が変わったよ。あのビールへの進出という試練が、佐治敬三というダイヤモンドを磨いたのだな」

 同じ2代目に生まれ、同じ親の業を継ぐ宿命を持っている〝東〟の五島昇氏は、自分の弟の年齢に当たる佐治氏をこう激賞する。

 

「真実」の尊さを知る佐治敬三の名言

 サントリーの宣伝部は、今、日本一と言われている。佐治氏はその宣伝部をつくった人物だ。幾多の人物も輩出した。山口瞳、開高健氏らがサン・アドから出、人材の層の厚いことでも知られる。佐治氏は言う。

 「ぼくはね、広告というのは、社会に向かって、〝僕たちはこういうことを考えているんですよ〟とわれわれの考え方を、社会に訴えてゆく。また、社会が何を求めているか、それを探し、それに応えてゆく。そんなものだと思うんですよ。ぼくはね、PRとは、社会への語り掛けだと思うんです。〝われわれは、こんなふうに、社会に貢献したいと思っているのです〟そういうふうにね」

 佐治氏は、ここでこんなことを言った。

 「ひとりの人間を永久に欺すことはできる。また、大衆も一時期なら欺すことはできる。しかし、大衆を永遠に欺すことはできない。要するに、真実でなければダメなんですよ。本当のものでなければ、ダメなんですよ。これをね、ぼくは常に一貫してきているんですよ。ですから、サントリーのウイスキーは、品質においてもスコッチに負けない。またPRでも本当のことを万年も表現してゆく。つまり最後に勝つのは、真実ではないでしょうか」

 その佐治氏には、山田稔氏(後のダイキン工業社長)の表現を借りれば、人材の余力があるという。そこにふれると、

 「そうですね、今の宣伝部には一級の人材がいると信じて疑いませんね。しかしぼくは、どんなに仕事の能力があっても、やはり人柄が悪いといけないと思うんですねえ。最後に決めるものは、人柄ではないでしょうか。このことはね、洋の東西を問わず、アメリカでもその他の自由主義諸国でも、いやそれだけでなく、共産圏においても言えることではないでしょうか」

 真実というものの尊さを知る人だ。

 

ひとりの人間を永久に欺すことはできる。

また、大衆も一時期なら欺すことはできる。

しかし、大衆を永遠に欺すことはできない

 

(構成/本誌・古賀寛明)

 

【温故知新】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る