政治・経済

外国人観光客が日本を訪れる上で、いちばんの楽しみは、「食事」だという。昨年12月には和食が無形文化遺産に登録されるなど、ニッポンの「食」は今、世界から熱い関心を持たれている。それに応じて農水産物・食品の海外輸出も急拡大。この動きは、日本の第1次産業を救うのか、課題は何か、沸騰の現場を追った。

 

食の市場は世界で2倍、アジアでは3倍に

 

 1杯数万円もするカニや1個1万円もするマンゴーなど、日本の高級食材が飛ぶように売れていく。中華圏で最も大切な祝祭である春節祭に合わせて香港などアジア各地へ運ばれていくのだ。今はまだ季節限定の風物詩かもしれないが、今後、この光景が当たり前になるかもしれない。昨年、日本への外国人観光客が1千万人を超えたニュースが話題になったが、それに比例するように日本の農水産物・食品が海外から広く求められるようになってきている。

 政府も、農林水産物・食品の輸出金額を一昨年の4500億円から、2020年には倍増の1兆円に目標設定するなど輸出に期待を寄せる。

 現在、食の世界市場は340兆円、20年には680兆円に倍増するという。中でも、アジアは現在の82兆円から3倍の229兆円にまで増える。

 当然、品質の高さはもとより、安心で、しかもおいしい日本の農水産物や食品の需要は今後ますます増加すると期待されているのだ。加えて、国内では将来の人口減少による食糧需要の低下が見込まれ、食の安全保障の面からもこれ以上、自給率を下げられない。競争力のある第1次産業は日本の命題と言える。

 海外輸出の順調な拡大は、農林水産省などの後押しも大きいが、楽天やヤフーなどのeコマースの拡大で、海外のものでも気軽に注文できるようになったことが大きい。食品は、鮮度や検疫の問題から、ネット上でも国際間の品ぞろえは寂しかったのだが、ここにきて強化されてきている。

 理由の1つが、物流のスピードアップだ。今まで鮮度の問題で送れなかった生鮮食品も、沖縄県と全日空、ヤマト運輸が主体になって進めている沖縄国際物流ハブを利用すれば、アジア圏に「翌日配送」が可能になった。輸出額の7割をアジアで稼ぐことを考えれば、これは大きい。

 沖縄をハブに、羽田や関空など国内4拠点と、香港、シンガポールなど、アジアの8拠点を貨物専用機で結ぶことで、速く、大量に、豊富な路線網を使って物資を届けることが可能になった。さらに、昨年秋から香港での国際クール宅急便も始まったことで、魚介類も冷凍だけでなく、鮮度を保ったまま現地で食べられる冷蔵でも運べるようになったのだ。

 もちろん、その分運輸コストは掛かるが、冒頭の話のように、高価であっても、それを購入できる富裕層がアジア圏で拡大している。

 

 日本の食の輸出拡大は戦略にかかっている

 

 では、このまま日本の農水産物・食品は拡大していくのだろうか。

 安心で安全、何よりおいしい日本の食材は訪日外国人観光客の口コミもあってか、随分知られるようになった。地方のブランド化も始まっており、北海道産といえば、外国での知名度も人気も高い。だが、このまま順調に輸出額が伸びるほど甘くはない。例えば、原発事故の影響でいまだに日本の食材の輸入を禁じたり、制限したりする国は多い。

 生産現場を歩いてみれば、輸出に対する悩みは検疫や通関などの煩雑な手続きの多さや取引相手を見つけることの難しさなど数多くの問題点があることが分かる。海外でのプロモーション活動でも、「おいしい」だけでは売れない。現に、髙島屋のシンガポール店では、日本の食に関する催事を行う場合、日本で行うように、接客も含めて、さまざまな仕掛けがなければ買ってはもらえないという。つまり、戦略が必要なのだ。

 しかし、このプロジェクトはまだ産声を上げたばかり。老舗料亭、菊乃井のご主人、村田吉弘氏によれば、「日本の食材が一番おいしい」という。「戦略次第でもっと拡大できる」ともいう。

 日本の「食」を売っていくことは、この先の日本人について考えることでもある。経済面はもとより、食の安全保障、教育など重要な意味を持ったテーマだからこそ、すべての人に考えてもらいたい。

(本誌/古賀寛明)

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る