政治・経済

航空貨物事業の価値向上を目指す全日空の狙い

20140610_tokushu1_081  全日空の貨物事業は、以前より成長戦略の柱として国内旅客、国際旅客と共に期待されてきましたが、今まで柱になりきれていませんでした。将来的な少子高齢化を考えれば、国内の大幅な成長は見込めないわけです。当然、国際線の貨物や旅客の分野をいかに伸ばすかがポイントになります。

 2009年に、沖縄をハブとした国際物流の体制を築くことが転機になりました。従来型の航空貨物事業のビジネスモデルである空港間の輸送事業一本では過当競争は免れないからです。地上輸送とも連携した航空貨物事業というような付加価値がなければ勝負できない。

 例えば、宅急便という地上に強みを持つヤマト運輸さまとの連携も、付加価値を高める取り組みの1つです。沖縄に着目したのは、航空貨物の最大の価値である時間短縮にあります。例えば、翌日配送を考えた場合、ハブ体制による効率的な運航が重要です。また、成長著しい中国や東南アジアの需要をうまく取り込むためにも、日本の西南端に位置する沖縄県に目を付けたというわけです。

 県からの積極的な支援もあり、現在では那覇空港を起点に日本を含めたアジア12拠点を夜間に貨物機が往復しています。沖縄をハブにするとアジアの主要都市をほぼ4時間圏内でカバーできますから、まさに地の利を得たと言えます。

 国際貨物に限定すれば、日本食材のニーズは品質等を理由に高まっています。訪日外国人のお客さまが増えていることも大きな要因です。尖閣問題の前より中国の訪日観光客は増えていますし、ビザが緩和されたことで東南アジアの富裕層だけでなく中間層まで気軽に日本を訪れるようになりました。

篠辺 修(しのべ・おさむ) 1952年東京生まれ。早稲田大学卒業後、全日本空輸入社。主に技術、企画畑を歩む。2007年にはB787導入プロジェクト長を務め、13年4月に代表取締役社長に就任。

篠辺 修(しのべ・おさむ)
1952年東京生まれ。早稲田大学卒業後、全日本空輸入社。主に技術、企画畑を歩む。2007年にはB787導入プロジェクト長を務め、13年4月に代表取締役社長に就任。

 観光客の方々が、旅先でおいしいものを食べ、帰国後、あの味を自国で買えないのか、と思うことも一因となってeコマース需要も伸びているわけです。

 沖縄県の輸出額は40億円強。そのうち食品は一昨年2億円だったものが、昨年には倍の4億円強にまで伸びています。付加価値が高ければ単価も上がる。

 まだまだ金額的には小さいですが、機材に積める余力はまだありますから、この付加価値の高い分野の比率を高めることで沖縄ハブの貨物事業の黒字化にもつながるものと期待しますし、そのためのさらなるネットワークの強化も考えています。

 実際に、新たな取り組みとして深夜、羽田=沖縄間を貨物便として運航していた旅客機に、お客さまを乗せる「ANAギャラクシーフライト」も夏休み限定で予定しています。これは、貨物便を旅客に逆活用した事例ですが、このように効率的かつ思い切った対応ができれば、貨物にも旅客にも新たな需要がつくれるものと思っています。

 

国際貨物事業はまだ成長の余地あり

20140610_tokushu1_051 貨物の需要増加の背景に外国人観光客の増加を挙げましたが、弊社の取り組みとして日本の味や文化を紹介する活動を行っています。

 その1つが、「Tastes of JAPAN by ANA」。3カ月ごとに日本各地の物産品やお酒をラウンジや機内で提供する取り組みです。例えば、3月から5月まで宮崎、宮城、愛媛の3県の名産品を提供しています。ファーストクラスでは宮崎牛のステーキが出され、ラウンジではご当地のお酒も楽しめます。現在まで、非常に好評で、東京オリンピックまでに日本全土を2周くらいするかもしれません。

 この取り組みの背景には、今年3月31日からの羽田国際線の大増便があります。今では17カ国、23路線に増えたことで、従来からある国内線ネットワークも含めれば国内から海外、海外から国内へも容易に移動できますので、さらなる需要の拡大を狙っています。

 従来、地方のお客さまの中には羽田から成田への移動時間もあって韓国の仁川国際空港を利用する方もいましたが、羽田の利便性が向上したことで人の流れまでも変えました。今後も活性化した羽田空港を軸に日本の品質の良さを知っていただく機会を提供することで、さらなる人の動きと、モノの流れを刺激できると思っています。

 弊社における国際貨物の収入はようやく1千億円を超えましたが、まだまだ途上です。今後、日本のブランドを海外でのビジネスにつなげていく企業も増えていくでしょうし、外食産業などの海外進出が増えれば日本の食品需要も拡大していくはずです。

 沖縄ハブや羽田の国際線拡大が食を介した人的交流や物流の活性化につながり、日本の、そして地方の活力にもつながっていくものと期待しています。

 (写真=佐々木 伸)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る