政治・経済

ゴルフ場運営大手アコーディア・ゴルフが打ち出した新戦略に業界内外の注目が集まっている。奇策ともとれる同施策の裏側にある現経営陣の真の思惑を検証する。

ビジネス・トラストの相関図難解スキームにステークホルダーは右往左往

 「いやあ、あんな複雑で突飛なスキームを考え出すなんて。要はとことん買われたくなかったのでしょうね、アコーディアさんは」

 ゴルフ場運営の中堅企業幹部が半ばあきれながら語るスキームとは、今年3月にゴルフ場保有・運営大手のアコーディア・ゴルフが発表した、アセットライト策についてだ。

 現在、同社は国内に133のゴルフ場を保有・運営しているが、そのうち90コースを新たに設立するSPC(匿名組合)に譲渡。さらにそのSPCの出資持ち分すべてをシンガポールで組成・上場されるビジネス・トラスト(シンガポールのビジネス・トラスト法を活用して設立される事業ファンド)に1117億円以上で売却し、SPCからはゴルフ場の運営を受託するという。

 アコーディアはSPCへのゴルフ場売却益に、8月上旬に大和証券系の大和PIパートナーズから新株予約権付きローンで借り入れる予定の200億円を加え、1300億円超の資金を調達。その資金を元にビジネス・トラストに25%超を出資し、現在1千億円を超える有利子負債の圧縮や、1株1400円で総額450億円の自社株買いを実施。新たなゴルフ場買収の原資にも充てていく。

 つまり、ゴルフ場運営にはそのまま携わり、これまで同様にゴルフ場買収も続けながら、不動産資産(アセット)をバランスシートから切り離すことにより、一時資金を調達しながら、経営の効率化を進めていくというスキームである。

 同社の発表資料によれば、この施策の大きな意義は、アセットの切り離しや自社株買いによってROE(株主資本利益率)を大きく向上させることと、シンガポールのビジネス・トラストを中心とした〝循環型ビジネス〟を実現することだという。同社の言う循環型ビジネスとは、アコーディアが新規ゴルフ場を買収後、同社の再生事業ノウハウによってバリューアップし、SPCへのアセット売却と運営受託によって得た資金によって、再びゴルフ場の買収をする、というものだ。

 資産の圧縮を進めながらも縮小均衡に陥ることなく、事業も拡大していくというのだから、これが成功すれば、苦境にあえぐゴルフ場ビジネスにとって起死回生の策となるだろう。

 だが、果たしてこのバラ色のスキームは、本当に実現可能なものなのだろうか。仕組みが複雑であることに加え、国境をまたいだこれまで例のない試みだけに、慎重に吟味をする必要があるのではないか。

 今回のスキームの背景には、言うまでもなくわが国のゴルフ産業が抱える構造的な問題がある。現在、日本のゴルフ人口は、高齢化や若年層のゴルフ離れにより減少の一途をたどっている。当然、ゴルフ場運営も影響を受け、アコーディアやPGMホールディングスを中心としたゴルフ場再生事業が一定の成果を収めているものの、客単価の低下や入場者数の減少に歯止めがかからない。

 そんな危機感を象徴するのが、昨年世間の注目を集めた、PGMによるアコーディア・ゴルフのTOB(株式公開買い付け)騒動だ。ともに100以上のゴルフ場を有する大手企業同士の経営統合によって、縮小市場の中で、さらなる経営効率化を目指そうとPGMが仕掛けたこの〝敵対的買収〟。結局、アコーディアが90%という前代未聞の高配当を打ち出し、期限直前に現れた旧村上ファンドの流れをくむレノグループの登場もあって、不成立に終わったことは記憶に新しい。

 冒頭のゴルフ場運営中堅企業幹部の言葉ではないが、こうして、両大手による経営統合が遠のき、次の一手が焦点となっているところで発表されたのが今回のアセットライト策なのだ。

 

鎌田隆介

鎌田隆介社長は“プロ”に翻弄されてはいないか!?(Photo:時事)

本当の狙いはレノ外しと買収防衛というお粗末

 アコーディアでは、このスキーム実施の前提条件として、6月の株主総会による承認を挙げているが、当然のことながら、第一に問われるのは、レノグループを含めた株主たちの意向だろう。この点について、くだんのTOB騒動について詳しい大手投資会社の某アナリストはこう指摘する。

 「今回のスキームの本当の狙いは、レノ外しと買収防衛策の強化に尽きるのではないでしょうか。これによってレノグループが保有株を売り抜けることができれば、売却益を得たいレノと、レノの影響力をなくしたいアコーディア双方にとってメリットがありますし、8月に実施されるという新株予約権付ローンによって、首尾よく大和証券グループが筆頭株主になれば、買収防衛策はより強固なものになる。ですが、いずれにしても、多くの株主の利益は除外されているような気がします。本来、これだけの大きな方針転換を行うには、株主価値向上に結び付く施策なのかどうか、具体的な数字とその根拠を明確に示してきちんと説明しなければならないはず。アコーディアさんの発表を見る限り、とてもこの疑問に答えているとは言い難い」

 株主価値という点では、従来9割だった配当性向を、アセットライト実施後に、特別損益などを除いたみなし当期利益の45%に引き下げる方針を示しているという点は、決して無視できないことだろう。9割配当に惹かれて株主となった機関投資家は、決して少なくないはずだからだ。

 

鎌田社長は本当にこのスキームを理解しているのか?

 実際、当初はこのアセットライト策に賛同し、自社株買いにも応じる意向を示していると伝えられていたレノグループの代表、三浦恵美氏が、5月12日に行われたアコーディアの2013年度決算説明会で、突如この点を問い詰め、出席者たちを仰天させたという。

 アコーディアの鎌田隆介社長は、「配当性向から総株主還元性向というとらえ方で株主価値の最大化を目指す」と説明したそうだが、今回のスキームでは利害が一致していると見られていたレノグループでさえ疑問に感じるのだから、他の多くの株主、特に「理解できないものには投資をしない」が鉄則の機関投資家たちが納得しているとは思えない。

 「そもそもファンドにSPCを売却することで、株主価値向上を図る、というスキーム自体に無理があるのではないでしょうか。シンガポールでビジネス・トラストを上場する際の想定利回りは通常、7〜8%くらい。私の試算では、その配当額は現在の9割配当の総額とほぼ同じ水準になる。

 つまり、現在の配当原資がそのままシンガポールに流れる計算です。その上で、アコーディアの株主にも配当をするには、ゴルフ場の収支を劇的に改善させなければならないのですが、現在の市況では不可能に近い。

 ほかに可能性があるとすれば、SPCを利用することによる節税ストラクチャーでしょうか。国境をまたいだ大胆なスキームとして、これなら数字の面では納得できます。もちろん、そんなことは日本の国税が許さないでしょうが」(前出・アナリスト)。

 ちなみに、この難解なスキームの助言役として大きな役割を果たしているのが同社のフィナンシャル・アドバイザーのSMBC日興証券および大和証券、法務アドバイザーとして三宅坂総合法律事務所と森・濱田松本法律事務所である。

 このメンバーを見てピンとくる読者も多いと思うが、大和証券と森・濱田松本法律事務所は、一昨年、民事再生に追い込まれた太平洋クラブの獲得にアコーディアと共に水面下で動いたメンバーであることも付け加えておく。

 ともあれ、今後の焦点は6月の株主総会へと移る。今回のスキームがゴルフ場ビジネスを蘇生させる画期的な経営手法となるのか、それとも単なる買収防衛のための奇策にすぎないのか。結論を出すには、今しばらく同社の動向に注視する必要がある。

 

アセットライトは絵に描いたモチ!?

 しかし、少なくともアコーディアが5月9日に発表した14年3月期の連結決算を見る限り、同社が描くバラ色のスキームの実現には早くも赤信号がともっていることも確かだ。

 営業収益こそ対前年比をかろうじて上回ったものの、営業利益および経常利益は前年割れ、当期純利益におよんでは同23・3%減という惨憺たるものだ。前期に発表した計画比が、ことごとく未達に終わっているにもかかわらず、アセットライト実施後の計画値を信じろと言っても無理な話だ。

 この記事を書いている5月19日現在のアコーディアの株価は1250円。アセットライトとセットで実施する自社株買い価格である1400円を大きく下回る水準。新株予約権付ローンの行使価格である1410円に届かなければ、潜在的戦略であるレノ外しにも失敗することにもなる。

 なおかつ計画値の未達はゴルフ場のメンテナンスにも直接影響する。ただでさえ同社傘下のゴルフ場の既存メンバーからは「9割配当なんて言っているから、コースへ投資が回っていないのでしょう。日を追ってメンテナンスはボロボロになりプレーする気が起きない」といった指摘が多い。

 結局、アセットライトは現経営陣の保身のためのスキームと断言できはしないか。

(文=本誌/大和賢治)

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