政治・経済

経営再建中のルネサス エレクトロニクスの業績が着実に回復している。ここに来て市場環境の好転と構造改革の成果で、2013年度決算で増収増益に転じた。しかし作田久男会長兼CEOはまだ予断を許さない状況にあると見ており、さらなる構造改革を推進する。

作田久男

作田久男・ルネサス エレクトロニクス会長兼CEO

増収増益の好業績の裏で抱えるリスク

 2010年4月の設立以来、減収を続けていたルネサス エレクトロニクスが、13年度でようやく増収に転じた。営業損益も設立以来、3期ぶりに通年での黒字を達成。純損益は赤字幅を縮小した。

 売り上げについては、年間を通じて自動車や産業機器向け製品の堅調な需要を維持したことや円高の是正により、8330億円で2年前の水準に回復。営業損益は、構造改革による固定費削減効果で、設立以来最高益となる676億円の黒字を計上した。純損益は53億円の赤字となったが、下期での黒字を達成している。市場環境の好転と大幅な固定費削減効果によるところが大きいが、回復基調に乗っていると言えるだろう。同社は四半期単位でしか予想を開示していないが、14年度第1四半期も対前期比、対前年同期比ともに増収増益を見込んでいる。

 しかし作田久男会長兼CEOはあくまで個人の見解とした上で、「現在のルネサスはタイトロープを渡っているような状況」だと語った。作田会長は現在のルネサスのリスクは売り上げにあると考えている。これまでのルネサスは大赤字の製品から儲かっている製品まですべて含んだ上で、売り上げ確保を重視した経営を行ってきたという。そして選択と集中の中で、EOL(販売終了)サービスを実施するなど、顧客にも一定の負担を強いる形で何とか利益改善に向かっているのが現状だ。一歩踏み外すと売り上げがガタ落ちするリスクを作田会長は懸念している。また、柴田英利CFOも「売り上げが落ちることによって、現在進めている構造改革が崩される懸念もある」と語る。

 ルネサスは今年からEOLサービスを開始したが、それに伴い、販売終了製品の「つくりだめ」を実施。その駆け込み需要が今の業績改善に寄与している。前期の営業利益のうち数十億円がつくりだめ製品の需要によるものだという。今年度もつくりだめ効果で数十億円の営業利益を見込んでいる。需給関係を表すBBレシオ(出荷受注比率)も3月より4月のほうが良い状況にある。

 このつくりだめの影響は今年度にピークを迎え、その後は徐々に減衰していくと見ているが、この見通しを誤ると負債を残すため、将来的なリスクとなるという。

 

グローバル競争に向け構造改革をさらに推進

 現状でルネサスの構造改革は4合目だという。同社では昨年10月から30カ月にわたる変革プランを遂行している。まずは15年度末までの残り24カ月で構造改革を完遂し、その成果を基に16年度に営業利益率を2桁に乗せるという。2桁の営業利益率は設立当初から中長期的な目標として掲げていたが、いまだ通年では達成していない。13年度は8%まで上げてきた。

 2桁の営業利益率を目指す理由については、グローバル競争の土俵に上がるために必達の数字だという。作田会長が在籍していたオムロンはルネサスの半導体のユーザーであるが、作田会長はユーザーの立場を振り返り次のように語る。

 「製品の品質に加え、会社の信頼性や永続性が認められて、はじめてセレクションの候補に上がる。営業利益率が2桁でないと、会社の信頼性や永続性が疑問視され、顧客のセレクションで外れてしまう」

 このため、2けたの営業利益率達成には並々ならぬ意欲を見せる。2けたの営業利益率は、構造改革の完遂を前提としており、「この2〜3年は構造改革に全力を尽くす」という。その中で固定費の圧縮をさらに進める。

 昨年は、生産について機能と拠点の統廃合を実施し、4月には前工程と後工程の生産子会社を立ち上げた。今年は設計・開発について機能と拠点の統合を進める予定だ。この設計・開発の統廃合を中心とする14年度の改革で、全体の6〜7合目まで到達する見通しだという。

 現在のルネサスの従業員数は約2万7千人で、ピーク時の7割以下にまで減っているが、作田会長は「現状でまだ25%程度の人員の余剰感がある」と語る。会社として積極的なリストラはしないとしているが、拠点と機能と統廃合で、転勤に応じることができない社員などが自ら去る形になり、結果的に人員削減が進む。

 こうなると気になるのは、ルネサス社内でのモチベーションだ。構造改革で収益基盤が固まり、次に成長に向かう時に企業の体力が残っているかという問題がある。このため、ルネサスでも人の資質の問題は認識しており、適切な人事評価でモチベーションの維持・向上には留意している。さらにコアの社員については、作田会長をはじめ、経営陣がマンツーマンでディスカッションし引き留めを行っているという。

 作田会長は、社員に対して「真面目」を超えて「本気」で、経営陣には「本気」を超えて「狂気」で仕事をするよう求めている。ルネサスの業績は回復したが、それは4度にわたる早期希望退職で1万人以上がルネサスを去るという固定費削減によるところが大きく、ある意味、狂気の沙汰の上に成り立っている。この経営陣の狂気が社員の本気にどう響くのだろうか。

(文=本誌/村田晋一郎)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る